149話 魔王の秘密
アルマが魔法で突風を巻き起こし、その風に乗るように俺とルミエラの炎が渦巻く。3つの魔法が重なり合い、炎の嵐となって魔王を包み込む。
炎柱の中では、風の刃が吹き荒れ、岩すら溶かしそうな高温が魔王の身体を襲う。しかし、その猛威を前にしても、魔王はただ立ち尽くしていた。
まるで、嵐はそよ風に、炎は心地よい温もりにすぎないとでも言うかのように。
「無駄だァ!!!」
魔王はそう叫ぶと、6本の腕を勢いよく振り上げる。その瞬間、炎の嵐が霧散し、戦場には再び冷たい風が吹き抜けた。
「本当に…!さっきまでとは全然違うじゃないか…」
ルミエラが息を切らしながら呟く。
「まだ魔法は完成しないわよ!気を張って!」
アルマの掛け声に、俺は歯を食いしばり、魔王を睨む。
すると、魔王が不敵な笑みを浮かべながら腕を振り上げ、こちらへ向かって突進してきた。
「――っ!」
思わず俺が身構えたその瞬間、ルミエラが突然、魔王に向かって駆け出した。
「ルミエラさん!?」
その行動は、まるで自殺行為だった。俺は驚き、彼女を止めようとしたが――。
「ダメ!」
アルマが俺のローブを掴み、静止する。
「止めないでください!ルミエラさんが…!」
俺が叫ぶと、アルマは真剣な目で首を横に振った。
「ルミエラなら大丈夫よ。必ず魔王の注意を引いてくれる。その間に…」
アルマはそう言いながら、戦場の中心で戦うルミエラと魔王を見据える。
「……あの6本の腕に宿る『加護』、いくつか正体が分かったわ。」
「え!?」
俺は驚き、思わずアルマの顔を見つめた。
「どうやって!?」
「方法なんて今はどうでもいいわ!」
アルマが鋭い視線を向け、手を前に突き出す。その眼差しに、俺は息を飲む。
「いい?ルミエラにはもう伝えてある。今から言うことを、あなたも頭に叩き込みなさい!」
「……分かりました!教えてください!」
俺が真剣に頷くと、アルマは息を整え、鋭い眼差しで話し始めた。
「まず、右の一番上の腕には…おそらく攻撃無効化系の加護が宿っているわ!」
「そんな加護が…!?」
魔王の右上の腕を思い出す。
これまで何度も魔法攻撃を放ってきたが、その腕で受け止めたものはすべて掻き消されていた。
「でも、どうやら無効化できるのは遠距離攻撃のみみたいなの!」
「つまり…?」
「だから――」
アルマは言葉を切り、ちらりとルミエラを見た。その目には迷いが見える。
俺も、瞬時にルミエラの意図を察した。
「まさか!?ルミエラさんは…!」
考えたくもない結論が、脳裏をよぎる。ルミエラは魔王の懐に飛び込み、直接攻撃を仕掛けていたのだ。
「……っ!」
俺は拳を握る。しかし、今はそれを否定している暇はない。俺のすべきことは、魔王の持つ加護の特性を把握し、それに対する最適な戦略を立てることだ。
俺は頭を振り、アルマに向き直る。
「続けてください!」
アルマは一瞬驚いたような表情を見せたが、すぐに口元を引き締め、話を続ける。
「次!左の真ん中の腕には、『神速の加護』というものが宿っているわ!」
「神速…?」
「その名の通り、移動、攻撃、反応速度……すべての行動のスピードを、限界以上に底上げする加護よ!」
「……!」
「あの異常な動きの速さ、あの瞬発力……普通じゃあり得ないもの!これだけは間違いないわ!」
ルミエラの動体視力でさえ追えない、魔王の動き。なるほど、それは加護によるものだったのか。
「でも!」
アルマの言葉が続く。
「この加護には致命的な弱点があるわ!」
「弱点!?」
「加護の力を使い続けると、魔王の身体が速さに耐えきれずに千切れてしまうの!」
俺は思わず息を呑む。
「魔王の動きが普段通りに戻った時が、攻撃のチャンスよ!」
「……なるほど!」
これは重要な情報だ。
魔王が神速を使い続ければ、いずれ自滅する可能性がある。しかし、魔王がそれを理解していないはずがない。加護の効果を最大限に活かしつつ、限界を超えないように調整しながら戦っているはずだ。
「次が最後よ!これ以上は私でも分からないわ!」
アルマが少し眉をひそめ、続ける。
「最後の加護は…左の一番下の腕に宿る『伝心の加護』…!」
「伝心……?」
「周囲に漂う魔力の波長から確信したわ!魔王は、常に”誰かと連絡を取っている”!戦闘中もずっと!」
「な、なんですって!?」
俺は思わず目を見開く。
「そ、それは誰なんですか………?」
「この場にはいない相手なのは確かね…」
その瞬間、アルマの目が見開く。
「……まさか、他の六星魔王!?」
アルマの表情が一瞬曇る。そして、首を振った。
「……今のは聞かなかったことにしてちょうだい。」
「……」
俺は言葉を失った。もし、魔王が他の六星魔王と連絡を取っているのだとしたら、ここでの戦いは単なる一戦では済まない。
「…さあ!これで全部よ!」
アルマが杖を強く握りしめ、宣言する。
「このことを頭に入れて!意識しながら戦って!」
そう言うと、アルマはすぐさまルミエラに加勢するため駆け出した。
「……!」
俺も杖を片手に握りしめ、全力で走り出す。
戦場を駆けながら、俺は思考を巡らせる。
魔王は。
近・中距離でなくては攻撃が通らない。
異常な速度で動ける。
誰かと常に通信している。
これまでの魔王の行動を振り返る。
――俺の一撃を防ごうとした。
――ルミエラの攻撃に少しだけ痛がっていた。
――傷は確かについている。
――ただし、痛みを感じている様子はない。
(魔王の戦闘スタイルは加護によるものなのか…?)
いや、それだけではない。魔王が誰かと連絡を取っているのは、単なる情報共有ではないはずだ。
「……もし、魔王が“指示”を受けていたとしたら?」
脳裏をよぎる仮説。
もし、魔王が戦闘中に何かしらの指示や情報提供を受けているとしたら、それを断ち切れば戦況が変わるかもしれない――!
「……!」
俺は歯を食いしばる。
(やるしかない……!)
「さあ!作戦開始よ!」
アルマの声が戦場に響く。
そして俺たちは、魔王の加護を逆手に取るべく、反撃の狼煙を上げた――。




