新米冒険者…になる予定
「安いよー!美味しいよー!買えー!」
「おらぁ!クソ野郎ども!買え!食え!買え!」
「ウチは、高い!少ない!美味い!が信条だ!」
おうおう、宿屋通りは活気が違うねぇ!
「シヴィ様、お耳汚しが過ぎるかと」
「んー?今じゃ僕は、この国1番の商会から肩書きを貰ってるけどさ、少し前までは中流の商家の次男坊だったんだよ?」
「それはそうですが、お店を構えて居られるのは居住区の商店通りではありませんか」
うん、ご尤も。
確かに、僕の家は居住区の商店通りにある。
だけどこっちと違って穏やかなんだよね。
ここは冒険者区とも言われるエリアだから、荒々しい冒険者相手ならこのくらい強引な呼び込みの方が丁度良いんだろうさ。
でも、『高い!少ない!美味い!』はどうかと思うけど…。
「どいたどいたぁ!!」
「邪魔だよ!どきなぁ!」
「うおっ!?あっぶねぇな!」
「うっさいよ!そんな場所をチンタラ歩いてるアンタが悪いんだからねぇ!!」
「なんだとぉ!?って!はやっ!?」
こう言うのが良くあるんだろうね。誰も気にしてないもん。
馬車が結構な勢いで走るなんて、居住区の方でやったらお縄だよ。即刻。
「んー…良い匂いがする」
「くんくん…何処からでしょうか」
「こっちかな?」
何やら甘しょっぱい匂いがして、それに誘われる様にフラフラと歩き出す。
今日、僕がここに来てるのはいくつか理由があるんだ。
ただ単純に冒険者になろうと思ったのも理由なんだけど、冒険者がどんな人たちで何を求めてるのか、何が需要がありそうかを調べるためでもあるんだ。
一応、開発部門の外部顧問だからさ。
あぁそうだ、僕の護衛兼監視役の兵士さんは着いてこなくなったんだ。
正式な発表では、エレイン爺ちゃんからの報告で僕の実力が自己防衛可能な程度は有る、と判断されたって言われたんだ。
ドゥからは、国内の不穏分子ホイホイとしての囮役みたいなものだと言われた。
こっちの方が納得がいくね。問題ないし。
……ホイホイとは言われなかったけど、まあ要約するとそんな感じなんだ。
囮とか生き餌とかそんなニュアンスだったね。
で、まあせっかくだから、やっぱり僕も冒険者として活動してみたいと思ったんだ。
ウィーは今回、ギルドの案内役として同行してるだけだから、次からは僕1人での外出になる。
「あそこかな?」
「その様ですね」
「おうおう!道を歩いてる奴は全員俺様の料理を買っていきやがれ!」
あらま、なんて強引なんでしょう。
でも良い匂い。
ん〜…照り焼きっぽい感じの匂いがするなぁ。
にしても凄いガタイだ!グリズリーにも勝るとも劣らない体格だよ!
「ん?おうガキんちょ、お前も買ってけ」
「じゃあ2個ちょうだい」
「おうよ!ほらよ!っていつもなら出来合いの物を渡すんだがな、綺麗な姉貴にサービスして出来立てを食わせてやろう!」
「お姉ちゃんは僕のだよ!」
「ブフッ!」
ん?あ、あれ?ウィー大丈夫?鼻血出てるよ?
「お、おい、姉貴大丈夫か?」
「えぇ、何も問題ありません。これからこのお店の常連になりますね」
「は?いや…え?まだ俺様の料理食ってねぇと思うんだけど?」
「料理では得られない物を得られました。どうもありがとうございます」
「え?あはい。どういたしまして?」
なにこれ。なんで?
たしかに美味しそうだけどさぁ…もしかして前に食べた事があるとか?
いやそんなわけ無いな。
忍者だからってなんでも出来ると思ったら大間違いだよ?人の心は読めないからね?
行動は読むことできるけどさ。
「ほいよ!俺様特製、串刺し闇肉の秘伝ソースかけだ!」
「闇肉?」
「匂いはとても良いのですが、一気に食べたくなくなりましたね」
何闇肉って。闇鍋みたいな感じで何の肉かわからないって事?
僕はまだ良いけどさ、ウィーには危ないでしょうが…。
はむ。
うん、何コレ?超美味しいんだけど?
「闇肉って俺様が言っておきながら、よく口にしたな」
「これなに?僕食べた事ないお肉だけど」
「おう!今日の肉はキングバードって鳥の、貴重なぼんじり肉だ!」
「キングバード!?はむ!美味しいです!!」
んー…これでも色々と本読んだりして知識を得たつもりではいたんだけど、やっぱり知らないや。
魔物の図鑑も確かに見たけど、覚えてないか載ってないか…それすらもわからないなぁ。
でもうまうま。
「キングバードってなに?」
「ん?坊主知らねぇのか。キングバードってのはな、羽を広げた全長は最低10m以上はある馬鹿でかい鳥なんだよ。滅多に地上に降りてこない上に、その肉はめちゃくちゃ美味えんだ。だろ?」
うん。確かに凄い美味しい。
タレの存在も、主張が激しすぎなく薄くもないちょうど良さ。
少し甘みが強い照り焼き風のタレ、焼き立てで恐らく醤油の焦げた香ばしい匂い、砂糖が焦げた甘黒い匂い、最高なのは間違い無いね。
肉の固さは鶏ぼんじりと同じ、歯応えも。臭みは無いし雑味もない。ワイルドな感じはするけど、別に全然嫌いじゃない。良いね!
「早朝の仕入れでよ、いつも通り水場で獲物が来るのを待ってたら、こぉーんな!でっけぇ影が…いやもっとデカかったな。まあそのデカい影が降りてきて、その水場で水を飲み始めたんだ。だから弓を番えてスキル『弓術』で…スパァンと1発の矢を放ち、それが見事首に刺さったんだよ」
「ん?おじさんは冒険者なの?」
「ああそうだぜ?まあ本業は吟遊詩人だがな」
ん?
熊店主は熊だけど人里に降りてきて食用の肉を狩って、捌いて串打ちして特製の照り焼きソースを付けて売るガラ悪店主で、その実吟遊詩人?
情報が多すぎるよ。忍者でも処理しきれないって。
「家に帰れば6児の父よ!」
いや、もうお腹いっぱいだよ。
吟遊詩人って旅してるイメージがあるけど、あれは勝手な偏見なのかな?
あと、こんなにゴツくない。
儚げでひょろっとした感じ。
ハットに鳥の羽とか付けちゃって。
むしろ羽捥いでる方じゃん!
6児かぁ…。
この世界、回復魔法はあるんだけど医療技術はもちろん中世なわけで、むしろ回復魔法がある分より悪いかも。
そんな訳だから、産まれたばかりの赤ちゃんや胎児、産んだ母親が命を落とすことはよくある事なんだ。
だから、基本的に子沢山な一般家庭が多かったりするんだよね。
でも、ここは王都。
いくら医療が発展してないと言っても、この国では最高クラスのお医者さんが居る街だよ?
「ガキンチョどもはうるせぇけど、あったけぇぞ!」
「子供が好きなんだね」
「おうよ!」
うん、何となく理解できる。そんな感じがするよね。
あ、いつの間にか串だけになってた。
「もう2…4本ちょうだい!」
「はいよ!…2人は酸っぱいのイケる口か?」
ただ単純に酸っぱいって言われても、柑橘系の酸っぱいなのか梅とかの酸っぱいなのか、それともお酢系の酸っぱいなのか…わからないよ。
え?柑橘?レモン?ああうん、好きだよ。
「私も好みですね」
「よっしゃ!んじゃあ、塩とレモン汁を2本ずつで作るぞ!」
「おお!美味しそう!」
今度からこの屋台はリピート確定だね!
冒険者としての先輩という事になると思うからさ、串焼きを買ったついでに色々教えてもらえそうでもあるね!
「ほら、お待ちどう!」
「はむ!はふはふ…もにゅもにゅ…おいしい!」
「あったりめえだろうが!」
そうやってガハハって笑ってると、本当に熊に見えてくるなぁ。
熊が笑うのか知らないけどさぁ?
「で、こんなこと聞くのは野暮だろうが、身なりの良い子供と、その少し後ろを従者の様にして歩いていたら姉ちゃん…ここに何の用なんだ?」
うわぉ、鋭い。そりゃ冒険者なんだから鋭いのは当たり前なのかな?
鋭いと言うか、よく観察してるって言った方が適切かな。
「実は僕、冒険者になろうと思ってさ」
「ほーん…歳はいくつだ?いや待て、当てよう」
おお!面白そう。これで、地球の時の歳と今生の歳を合わせた数字を言われたらひっくり返る自信があるね。
どう考えても、この外見で〇〇歳はあり得ないと思うし…。
ん?でもこの世界には多種多様な…エルフやドワーフ、ドラゴニュートや獣人とかが居るからなぁ。
小人族とか僕みたいな外見で成人してるって本に書いてあったっけか。
なにを基準にして小人とか巨人とか言ってるのか知らないけど、体が小さいとか大きいが一種のステータスだと思うんだよなぁ。
森に住むのを好む自尊心の塊ヒョロヒョロエルフ種、兎に角穴掘り採掘火酒が大好きな樽胴髭面ドワーフ種、ドラゴンを頂きにして御使を自称する最強ドラゴニュート種、種々様々な特徴に別れるが身体能力怪物の獣人種。
それに比べて僕らは、ノーマル平均際立った特徴なしの人間種。
ん?それなら人間種が中心になるのかな?それともワースト?
まぁピンキリなんだけどね。
「んー…14歳か?いや、13歳だな!」
「おー!」
「よっしゃあ!へへっ!どんなもんだぃ!」
「惜しい!」
「違うのかよ!糠喜びじゃねぇかよ!」
糠喜びって言葉あるんだね。って事はだよ?糠漬けもあったりするのかな?
あ、糠漬け食べたい。
「で、いくつなんだ?」
「11」
「11!?おまっ、え?その歳で冒険者になるつもりなのか?なんで?」
「冒険者になるって言っても、この街から日帰りできる範囲での話ね?」
そもそも登録して直ぐには街の外に行けないらしいんだけどさ。
もちろん、外に出る依頼を受けることができないって事ね?
個人の判断で外に出ることまでは制限出来ないし、旅人が身分証の役割として持つ事もあるみたいだから、外に出る依頼を受けられないってだけなんだ。
「ふーん。ま、頑張れよ」
「うん、ありがとう」
「おうよ!」
さて、ギルドに出発だ!
お読みいただきありがとうございます!
次回は11月1日の23時です!




