備えあれば憂いなし
本当なら目立たないように隅っこで気配消して居たかったんだけど、フォルゲン名誉騎士伯爵様に勝っちゃったものだからめっちゃ見られてる。
こうなったらいくら気配を消そうが、僕から意識を逸らす事は出来ないや。
忍者にだって出来ない事は沢山あるよ。
水上歩行…は出来る。空中浮遊…も条件次第で出来る。
瞬間移動は出来ないや。うん。
注目されるのって好きじゃ無いんだよね。
ほら、皆さんダンスしてください?
ダンスパーティーでしょ?
あ、僕は遠慮します。はい。
え?お見合い?僕、貴族じゃ無いので…。
それでも良い?いやぁ…ちょっと…ははは。
へるぷみー。あいにーどへるぷ。
「ほっほ、若い人を寄ってたかって虐めるのはおやめなされ」
元凶は貴方です。じっちゃん。
対局した僕にも責任はあるけどさ、そもそも対局しようぜ!ぼうず!って来たのは貴方です。
それに、貴方から見たら国王陛下ですらお若い人にはいるのでは?確か50代ですよね?陛下。
「少し私達は別室で休憩致しますわ」
「おお!そうして下され。まだ身体が成長しきってないので無理はなさらない様にして下され」
ルーの機転の効いた一言で、それなら仕方ないとみんなが諦めてくれた。
ナイスファインプレー!グッジョブ!
何故か爺ちゃんとお婆さんも一緒に。なして?
「シヴィ殿の噂は聞いておったのですが、聞きしに勝るお方ですな」
「良い噂だと嬉しいのですが、人の噂とは悪い部分が誇張されて流れますから訊ねるのが怖い」
「ほほっ!確かに。然れど、良い噂も誇張されがちでは無いですかな?」
「それが耳に入っても、話の半分程度しか信じはしませんでしょう?或いは全く信じないか」
忍者の仕事其乃壱、相手の情報を得るべし。
忍者の仕事其乃弐、此方の良い所を誇張して流すべし。
忍者の仕事其乃参、相手の悪評を誇張して流すべし。
要するに、情報操作と撹乱、流言飛語を目的とした地道な活動って事ね。
最も効果的なのは、各家のご婦人方に流す事。
『ねぇこんな話聞いたんだけど知ってる?え?そんな話もあるの?誰々から聞いたんだけど…』
コレが一番広がりが速い。
誰々から聞いた、みんなが話してるのを聞いた、旅人がお茶屋さんで言ってた…。
信憑性は無くても、それが広まれば勝手に信憑性が出てくるんだ。
みんなが言ってるから、誰々が言ってるから、情報通のーとか、馴染みのお店の人がーとか。
現代では主にテレビや動画配信アプリなんかが其の役割を担ってるかな。
仕事がし易かったよ。
で、基本的に人から人に話が伝わる時って、面白おかしく大袈裟に話したくなる物だから、最初は小さい話でも尾鰭背鰭胸鰭腹鰭、最終的には足がついて1人でに走り回ったりもするんだ。
噂の出所がバレるって意味での『足がつく』は遠慮願いたいけどね。
ん?
「「敵」」
僕とお婆さんの声が被った。
「……」
「貴様ら、何者だ?」
僕とお婆さんの声を聞いた瞬間、ルミルさんがルーを部屋の隅にやって護るように抜剣した。
それとほぼ同時位で、目元だけが出ている黒の服で身を包んだ6人が現れた。
暗殺者だね。
ダンスの邪魔になるからと、剣は与えられた控え室に置いてきたって爺ちゃん言ってたなぁ。
お婆さんは弓職だし、そもそもドレスじゃ動きにくいと思う。
武器持ちはルミルさんと僕のみ。
ルミルさんは、今まで使ってた剣を抜剣してるけど、ドレスアーマーの腰にはもう一本差してるんだ。僕があげた刀ね。
破魔の近衛御剣。破魔じゃなくて、破邪にしとけば良かったかなぁ…。
僕の左袖に入ってるのは、柄の長さも含めて10cmくらいしか無い短刀。僕の腕の長さじゃコレが限界なんだよ。
右袖には棒手裏剣が2本、両靴の靴底に仕込みナイフ、髪の中に50cmの鉄糸が一本。あと、左手の人差し指にはめてる指輪に、1mくらいの鉄糸を仕込んである。
僕の所持する武器はコレくらいだね。
サーモン執事長達の目を掻い潜って仕込むにはコレが限界だったんだ。
さて、先ずは爺ちゃんに短刀を渡したいな。
多分、無手でも強いと思うけど…リーチの差は無くならないし、爺ちゃんに武器を渡せれば鬼に金棒だと思う。
実力を知らないから何も言えないけどさ。
いや、お婆さんに短刀かな。爺ちゃんは棒手裏剣で良いかも。出来ればルミルさんの大脇差を貸して欲しいけど、獲物がデカい分渡すのに手間取ることも考えられる。
うん。そうしよう。
左手をダランと下げて、3度揺する。
スルスルと落ちてきた柄を掴んでお婆さんの方に投げる。
「あら」
「使って」
多分、このお婆さん俯瞰出来るんだよね。
それがスキルによる物なのか、培ってきた直感とか技術、センスによるものかは分からないけど。
投げた時に、鞘は掴んで抜身の状態にしてあるから、すぐに使える。
鞘は鞘で使えるし、コレは棒手裏剣と一緒に爺ちゃんに渡そ。いや、牽制に使おう。
右手を掲げて一度強く振る。
棒手裏剣が2本飛び出て爺ちゃんの方に飛んでいく…のを、一本目はスルーして2本目は掴む。
と同時に、鞘を相手に向かって投げつけ、牽制と視線誘導を行う。
「ほっほ。得物があると安心するわい」
「さぁ、場は整えましたよ?」
「うむ。後は儂に任せなさい」
空になった左手に、量産を使って産み出した棒手裏剣を持つ。
やっぱ便利だね、この能力。
「……」
無言のまま一斉に爺ちゃんに掛かった暗殺者達だけど、爺ちゃんは体術でそれをいなす。
あー…、あの短剣、毒塗ってますね。間違いないです。
黒塗りにして目立たせないようにしてるのだろうけど、忍者の目は誤魔化せませんよ。
致死性ばっちりの毒だろうね。怖い怖い。
しかも、ここに侵入して来れるって事は相当な手だれって事だから、使ってる毒はオリジナルブレンド。普通なら緊急用に特効解毒剤を、少なくても自分の分だけは持ってる筈だけど…それもないだろうね。
逃げる事を考えてないだろうさ。侵入して、標的を排除したら任務完了。
その後のことは流れに任せる。
この場からなんとか脱せたところで、侵入時と違って援護は無い筈。生きて帰るのはまず無理。
最悪は捕まって拷問。最良は発見されない場所での自死。
裏の人間が考える事なんて、ほぼ同じなんだよね。僕も含めてさ。
だからわかる。手に取るようにね。
「くそっ!標的だけは絶対に始末しろ!」
多分、今喋った人は一番下っ端。
リーダーだと勘違いさせてヘイトを集め、その間に実力が上の者たちに遂行してもらう。
そして、『標的』とあえて人名を出さないことで、相手の標的がルー…つまりはこの場にいる1番の護衛対象だと思わせる思惑がある筈。
となると、次点で消したい相手は…僕かな?
はっきりと言って、爺ちゃんとお婆さんはもう直ぐにコロリすると思ってるんだろうさ。多分まだまだ元気だと思うけど。
で、ルミルさんを狙う意味は無い…事もないけど薄い。
消去法で僕となるわけだ。
僕に毒は効かないと思うけど、オリジナルブレンドは少し怖いね。喰らわないことに越した事はないし、免疫をつけるために毒だけ回収して無力化しますかね。
「やれやれ、儂も舐められたものよな」
「ぐっ!?はや!!」
あー、あれはスキルですね。気が付いたら相手の眼前にいるなんて。
「『瞬歩』」
はい?え?ん?
今になってスキルを唱えた声が聞こえましたが?もしかして、音を置くスピードで動いてるんですか?
そんなのチートじゃん…。
「『虚実の弓矢』」
「うわぁ…」
お婆さんがスキルを使ったら、半透明な弓と矢がお婆さんの手に握られてたんだけど?
武器要らずって事じゃない?反則だわぁ…。
短刀寧ろ邪魔?
瞬く間に放たれた矢は、脅威の3本。
「『量産』」
お、出来た。
他人のスキルに干渉することが出来るかわからなかったけど、使ってみたらなんて事はなく出来てしまったよ。
3本だった矢が、6本に倍増。
「『瞬歩』」
声がした。
移動先には倒れた敵。
はーー、怖い!
これはもう、気が付かれたから姿を現した…って言うのが敗因だね。
暗殺者は暗殺者と言う利点があるのに、それを捨てて正面から来た時点で残念でしたーってなるのは分かってたよ。
暗殺者じゃない暗殺者なんて、ちっとも怖くない。だって正面からの戦闘向きじゃないから。
それで勝てるなら戦争したほうが早い。
いや、早くはないけど…確実だよね。
おっと!やっぱり狙いは僕か!
「『量産』」
棒手裏剣を更に増やし、右手に2本、左手に1本を持っている状態。
口元や肩の動き、喉の動きも分からないから、相手の呼吸に合わせて投げる事は出来ないや。
歩幅とかスピード、歩数や身体のぶれ方や足が地面と離れてる時間とかで割り出せるけど、今この状況では出来ないと思う。
割り出すのに10数秒掛かるからね。
「ふっ!」
キンッ!
1つを直線で投げ、右手の1本を左手に投げ渡す。
握らずに拳で叩いて相手に飛ばす。
けど、まあ弾かれたよね。
最後の1本は雨打法を使用。
一瞬意識が逸れたけど、加速して落下点から回避された。
「welcome!」
突き出してきたナイフをいなして蹴りを叩き込む。
避けられそうになったから、靴の中でこちょこちょとやって仕込みナイフを飛び出させる。
「っ」
ははは!流石にリーチが伸びるのは予想外だったかな?
だけど浅く切っただけ。毒も塗ってない。
致命傷じゃないね。
さぁて、こっからどうする?
お読み頂きありがとうございます!
次回は28日の23時です!




