あの、ダンスは一回だけでも良いと言われましたが……
僕たちがダンスを離れて料理を堪能してる時でも、音楽は演奏され続けている。
僕らみたいに料理を食べる人もいるけど、その人たちだってずっとそうしてるわけじゃ無い。
軽く二、三品口にしてからダンス相手を探す放浪に出る。で、踊る。
1番若いと思うのは…多分僕ら。基本15歳とかもう少し上の歳になってからの参加が多いんだ。
ルーは王族だからわかるけど、王族でも成人でも無い僕は明らかに異質だよね。改めると。
逆に、1番お年を召してると思うのは…あのおじいちゃんおばあちゃんかな。
70後半かなぁ。
「あの方々はフォルゲン名誉騎士伯爵様と奥方様です」
「名誉騎士伯爵?名誉騎士爵じゃなくて?」
ルミルさんが教えてくれた爵位は聞いた事が無いんだけど。
騎士爵なら一代に限り継承を認められる権限が与えられてて、その一つ下の爵位は名誉騎士爵。
こっちは当代限りの貴族位なんだ。
騎士爵を世襲した場合は名誉騎士爵に爵位が下がるんだ。
だけど、名誉騎士伯爵なんて爵位は無い。と思うけど、ルミルさんが言うんだからあるんだね。
「名誉騎士伯爵とは、あの御仁に叙爵されるが為に作られた爵位です。騎士と付いてる通り、戦場での目覚ましい活躍によって、一代に限り国境伯爵並びに辺境伯と同位の名誉伯爵位が授与されました。ちなみに、ご当主様は御歳92歳ですが、現役で最前線にて武威を奮っております」
92?全然見えないんですけど…。
確かに、燕尾服のしたに無駄の無い筋肉が付いてるのは気が付いてたよ?
でも、現役とは思わなかった…。
しかも、指揮官としてではなくて、自らが剣を振るだなんて予想だにしなかったよ。こわ。
「更に申し上げますと、奥方様は弓の名手でございまして、軍や団や武官系貴族の方の指南役を勤めております。戦場でフォルゲン流弓術を修めし者と名乗りを上げれば、それだけで味方の士気が上昇し、相手の士気は下がります」
「なるほど…と言う事は?」
「はい。奥方様にも爵位を授けられております。奥方様の爵位は無爵です」
無爵、実際には爵位無しと同じだけど、その功績に見合う勲章を叙勲されるんだ。
多分旦那さんが爵位持ちだから、奥さんの方は勲章にしたんだと思う。
あ…気が付いたみたい。
「姫様、ご機嫌麗しゅうございますな」
「ん、じいも元気そう」
「ほっほ。儂はあと百年は生きますぞ」
「それは化け物。人間じゃ無理」
「なら、エルフにでも成りましょうや」
いや、エルフはどちらかと言えばお婆さんの方ではありませんか?弓使いでしょ?
爺さんは…獣人?
「お初にお目にかかります、シヴィ・ダンシャクと申します」
「丁寧な挨拶をありがとうございます。儂はエレイン・フォルゲン名誉騎士伯爵です。以後よしなに」
「私はカレン・フォルゲンです。よろしくお願いしますね?未来を担う若人さん」
え?まって?何か勘違いしてそうですけど?
僕とルーがくっつくと思ってますか?
僕たちはお友達…それも悪友の類なんですが?
「ところで、シヴィ男爵殿と言えば将棋を発明なされたお方と聞き及んでおりますが…」
「ええまあ、はい」
「料理もいっぱい。コレとかアレとか、ソレも」
「なんと!お若いのに素晴らしいですなぁ。いやはや、お若いからこそ思い付かれるのやも知れませんが…ほっほ」
いや、なんて言いますか…異なる世界から来たもので、その世界にあってこの世界に無い物を作ってるだけなんです。
刀とか完全に異色の武器でしょう?
「儂の耳に入ってきた情報によると、貴殿はなかなか遣り手だと伺ってますぞ。どうです?一局」
「え?いや、ダンスに関してはど素人でして、たった数日習っただけの付け焼き刃なんです」
「ほ?いやいや、ダンスではなく…将棋を」
ああ!一曲じゃなくて一局ね!
Shall we dance?じゃなくて一局お相手願おうか…の方ですね!
そっちなら喜んでお受けしますとも。ええ。
「では、対局お願いします」
「男爵殿、よろしくお願いします」
「あ、ソレなのですが、私は男爵の爵位を持って居るわけでは無くて、我が家の家名がダンシャクなのです。ですからシヴィとお呼びください」
「おや、これは失礼致した。では、シヴィ殿と」
本当は殿もなくしてもらって良いんだけど、まあ相手の呼びやすい呼び方で良いや。
さてさて、このお爺ちゃん絶対に強いから手加減はしないで全力勝負をしよう。
パチリ
「実は少し自慢が有りましてな、儂の妻以外にまだ負けた事が無いのですよ」
「それは凄い。いやいや、こうやってコマを進めているだけでその凄さが伝わってきます。圧が凄いですね」
「なんのなんの。妻は前線防御に優れており、戦線を膠着状態にさせてから長射程の駒で…。儂は接近戦が好きな物で、前線を押し上げるのが得意なのですよ。ほっほ」
パチリ
いや本当に、謙遜とか無く本当に圧が凄い。
だからと言って猪武者かと聞かれれば、断じて違うと言えるんだ。知勇兼備。まさにコレだね。
なら僕は、囲いを作って堅固な守りにしよう。
「なんだあの構えは…見た事が有りませんぞ?」
「アレは相当堅い守りですな」
「アレでは玉が動けまい。窮地に陥った時は脆く成りそうだが」
「いやいや、そう簡単に崩れはしますまい」
「しかし、攻め手はあのフォルゲン騎士伯殿ですぞ?奇策には奇策で対抗するに違いありません」
何やら外野がうるさくなってきたなぁ。
ちなみに、僕がやってる囲いは居飛車穴熊っていう囲いなんだ。
簡単に言えば、正面と右は山に囲まれて、背後と左は断崖絶壁…みたいなお城を築いてるんだ。
城を落とすには、正面から崩すか右から崩すかの2択。どちらも一筋縄では行かない上に、こちらの飛車が遊撃に出れるんだ。さぁ、どうする?
パチリ…パチリ…パチッ…パチッ…
ピシャッ!
はい…。
「王手」
僕は堅牢な要塞を組んだから、守りに割くリソースが少なくて済む。
その分、飛車や角、桂馬を使ってトリッキーな動きをする事ができるんだ。
「なんだあの動きは…騎士伯殿が翻弄されてる」
「ああも振り回されてはたまった物では無いな」
「アレを防ぐには此方も熊のように巣穴に籠らねばなりませんぞ?」
「いやいや、初見であるからこうも翻弄されているのだ。フォルゲン騎士伯殿に二度は通用しないであろう」
さて、こうなったらもうジリ貧だよ?
あと三手で詰みだね。確実に。
「うぅむ。参った。参りましたわい。流石に強いのお」
「なんの、此方もヒヤヒヤとしてましたよ。対局ありがとうございました」
「ありがとうございました」
内心はそうヒヤヒヤしてなかったけど、一回だけドキッとした場面があったのは確か。
いやぁ…。僕も前世と合わせれば半生近くは生きてるんだけど、僕の倍以上生きてるだけあって強いね。
しかも、殆ど戦場に立ってるみたいだし、実戦経験の差が、将棋の実力差を詰めてきたって感じがして恐れ入るばかりだよ。
僕の場合は忍者の実践稽古だったし、正面からの戦いってあまり経験がないんだよね。
何はともあれ、僕にとっても良い経験になった一局だったよ。
「シヴィ殿」
「はい」
「度々、対局をお願いに伺ってもよろしいですかな?」
「勿論です。色々とおもてなしさせていただきましょう」
てってれてー!
シヴィ・ダンシャクは 将棋仲間を 手に入れた。
「むぅ。私もやる」
「じゃあ僕は観戦するね」
「ん」
「ほっほ。お手柔らかに頼みますぞ、姫様」
どちらかと言えば、手加減するのは爺ちゃんの方だと思うんだけど……。
普段から僕と対局してるルーも、恐らくこの世界の人たちからしたら突飛な戦術を使って攻めるだろうから、強ち間違いでは無い気もするんだよなぁ…。
2人と対局してる僕からすれば、爺ちゃんの適応力が半端じゃ無いからルーが負けると思う。
いやいや、予想ができないね。楽しみな一戦になりそうでワクワクするよ!
あれ?頭痛が痛いみたいな文になった?
お読み頂きありがとうございます!
次回は26日の23時です!




