私、ルー。今、貴女の後ろにいるの。
カァー…カァー…
「ふぬぬぬぬ……んー……ふはぁー…」
僕の目覚める時間は特に決まってない。
ご隠居生活万歳!
だけど今日は、カラスの鳴き声で目が覚めてしまった。
「烏鳴き、朝日を浴びる、東空、朝餉の香る、夢見しあの日」
うむ。日本が恋しくなっちゃった。
カラスが鳴いたって事は日の出の時間ですよ、東から登る朝日を浴びましょう。
もう叶わない、いつの日かの朝食時の夢を思い出すね。
思いとしてはこんな感じかな…。
この世界の…と言うよりも、この国の太陽は西から昇ってくるから、この俳句は合わないんだけどね…ははは。
下の句の、朝餉の香るってのは叶いそうだから嬉しくはある。
白米とお味噌汁(具材は豆腐と大根が良いな)にきゅうりのお漬物、塩鮭とは言わないけど焼き魚があれば言うことないかなぁ。
あと納豆!納豆は…多分日本っぽい国にはあると思うけど、この都市には無いみたい。
アレも好き嫌い分かれる食べ物だし…忌避されるのはわかるけど…食べたいなぁ。
「お目覚めですか?」
「あ、うん」
「お召し物のお取り替えをさせていただきます」
ここに住むようになって、メイドさんたちに甲斐甲斐しくお世話をしてもらえるようになって1ヶ月が経とうとしてるけど、いまだにコレは慣れない。
お貴族さまなら普通なのかな?自分で着替えをしないって言うのは。
「ふあぁ」
「まだお眠りになれれますか?」
「ううん、もう起きるよ」
微笑ましくしてるけど、地球の時と合わせれば僕の方が年上なんだからね?
コレが子供っぽいのか…。
どうも、記憶はあるけど精神年齢は肉体年齢と同じみたい…。その方が違和感ないから良いのかもしれないけど。
神童とか言われるのは嫌だし、ここで大人しく生涯を過ごさせてもらおう。うん。
「ふあぁ……しゃかしゃか」
あくびを抑える事が出来ないでいるけど、どのみち歯磨き中だから口を閉ざす必要もないのを良いことに連発してる。
「ふみゃあぁ……」
しゃこしゃこ…しゃかしゃか…
「ふぁあ…」
「ふみゃあ…」
ん?え?
ここには僕しか居ないはずなんだけど?なんだか僕以外のあくびが聞こえたような…。
ガラガラガラガラ〜〜……ペッ
「ふみぁあ……」
「うわぁあああ!?」
「うわああああ」
びっくりした!!え!?だれ!?
僕の後ろに知らない女の子が居るんですけど、本気で心当たりがありませんが!?
「えっと……おはよう?」
「おはよう」
どうやってここに入ってきたのか分からないけど、身なりとか容姿を見ると一般人じゃ無さそうな感じがする…。
よく、端正な顔立ちの人をお人形さんみたいって言うけど、お人形さんの顔ってなんか怖いって思うんだけど…?無機質だし。
「シヴィ様!どうされましたか!?」
「あ、ウィーおはよう」
「おはよう」
「あ、おはよう御座います……って!姫さま!?」
ひめさま?ひめさまって…姫さま!?
プリンセスってことぉ!?
「ど、どうしてこちらに?」
「私と同い年の変な男の子がここに居るって聞いた」
あの、誰から聞いた話なのか皆目見当もつきませんが、変なってのは余計ですよ?誰から聞いたんですか?懇切丁寧に、人を変人呼ばわりする事がいけない事だって教えて差し上げますから。
これで国王様から聞いたって言われたらどうしようか。口を噤むしか出来ないじゃないか。
「あ、どうも初めまして、シヴィ・ダンシャクと言います至って普通の10歳の隠居です」
「私はルージェイヤー・アルシェ・ブリード、この国の第三王女。ルーって呼んで」
うん、やっぱりここに居て良い人じゃないでしょ。
お付きの人とか護衛とかどうなってるの?この屋敷の人たちにも言えることだけど。
「と、取り敢えず場所を移しましょう」
「応接間に参りましょう」
「わかった」
いったいこの子は何をしにきたんだろう?
まだ日の出から少ししか経ってない早朝なんだよ?すこし非常識だと思うけど…。
「紅茶をお持ちいたしました」
「ありがとう」
「コーヒーです」
「うん、ありがと」
コーヒーと一緒に軽食を持ってきてくれたのはありがたい!めっちゃお腹空いてたんだぁ!
目玉焼きと厚切りのハムを炙ったもの、それと新鮮なレタスのサンドイッチ…。おいひい。
そして熱くはないけど温くもない、適温のコーヒーを飲んで喉を潤す…。最高の朝食だぁ!
「それで…なんの御用ですか?」
「普通に話してくれて良い」
いやいやいや、貴女はこの国の王女さまでございますよ?普通に話せる訳ないよ…。
「最近、新しく出来たお屋敷に男の子が居るって城内で噂になってる」
それはさっき聞いたよぉ…。
「新しい玩具を作ったとも聞いて、それを見にきた」
「玩具?新しい?」
「シヴィ様、オセロの事かと」
「ああ!」
なるほどね!確かに新しい玩具だ!
でも、オセロはこのお屋敷内でしか使って無いし、盤も石も1セット分しか作ってないのに…どうやってそのことを知ったんだろう?
僕の対局相手になってくれてた、この屋敷のメイドさんとか執事さんたちからお城に勤務する人に話が流れたのかな?
別に秘密にしてる訳じゃないから良いけど。
お姫様が直接乗り込んできたのは驚いたし、歯磨きしてる時に後ろに立ってたのにはもっと驚いた。
心臓だけじゃなくて肺も飛び出そうになった。
はぁ。
「ねえ、聞いてる?」
「あ、はい。オセロをやりたいんだよね?」
「うん。退屈だから」
退屈……ねぇ…。
今の僕ならその気持ちわかるけど、一般庶民に休日なんてのはないから贅沢な悩みだよね…。
王族の事なんて僕にはわからないけど、多分王子さまなら色々と忙しいだろうなぁ。
「ウィー、オセロ持ってきてくれる?」
「はい」
「これがルールブックね」
「うん……コレだけ?」
「そうだよ。簡単だからすぐにできるでしょ?」
「こんな単純なのに、今まで誰も思いつかなかった…。すごい」
ごめんなさい、コレ考えたの僕じゃないんですよ。地球で既にあった盤戯をパクっただけなんです。
そこは事なく罪悪感を感じるよ。だから尊敬の眼差しで見ないで下さい。
「お持ちしました」
「ありがとう!」
「おお、これが…」
さっきから思ってたけど、口では言葉として感情を表現してるんだけど…顔と声に感情が乗ってない気がするんだけど?
さっきの『うわああああ』とかも、なんて言えば良いのかなぁ…んー…口の形に合わせて声を発してるだけ…見たいな?
「それじゃあ最初は、僕とウィーでやってみるから見てて」
「うん、わかった」
「じゃあ、龍ならウィーから、虎が表になったら僕から始めようか」
「はい」
ふっふっふ!なんと!使い道はオセロの石だけではないんです!先攻後攻も決める事が出来てしまうのです!
なんてことを考えてる間に、指で弾いて空にあげる。
おお!詩的だ!
「龍。私からになりますね」
「うん。それじゃあ、一局よろしくお願いします」
「お願いします」
これが僕が追加したルール。対戦前にお互いに礼をする。
パリチ…パチリ…。
部屋には石が置かれる音と、ひっくり返す音が響くだけ…。良い。すごく良い。
「あ」
「ふふっ」
ウィーに角を取られて思わず声が出ちゃったけどさ、そんなドヤ顔しなくても良いんじゃない?
僕、一応貴女の主なんだけどなぁ。
それに、角を取られたって言ってもまだ一角だけだし、角を取れば勝てるってものでもない!と思いたい…。
だって、別に僕はオセロが強いとかじゃないからね。角とか辺を取られたら焦っちゃうよ。
「ふっ」
「ぐぬぬ」
ひひひっ!今度は逆に僕が角を取ってやりましたぜぃ!
ってか、メイド長さん。貴女今、ぐぬぬって言いましたよね?
主君に向かってぐぬぬって言って良いんですか?そもそも女性がそんな声上げちゃいけませんよね?
なんて考えてる間にも局は進んでいく訳で、地球のオセロと違って白黒と色が分かれてる訳じゃないから分かりにくいけど……盤上で表になってるのは虎の方が多いはず。
でも僕は油断しないぞ!オセロは一発逆転の代表的な遊戯だからね!
「むむむ…置けませんね…パスです」
「ふっふー、僕の勝ちは目前だね!」
「……そうですか?」
「ふへ?」
うぎゃあああ!!まさに1発逆転された!
あ、あ、どんどんひっくり返っていくぅ!
あ、おくとこないや。ぱすです。
「くふふ」
ひぃいいい!!そこはダメェ!?
あ、おわったー。このまま終わるやつだー。
「参りました」
「いつまでもシヴィ様に負ける私じゃありませんよ!メイド長の仕事は部下の統率も含まれてますから!」
結局、53対11で僕の負けでした。とほほ。
「おー。面白そう。私もやってみる」
「ルールはなんとなくわかったかな?」
「うん。では、よろしくお願いします」
「はい、宜しくお願いします」
オセロの良いところは、将棋やチェスみたいに始める前にセットする必要がないって所もあるね。最初に自分と相手の2枚ずつおく必要はあるけど、そんなの2秒も掛からないでしょ?
まあ、チェスも将棋も、その駒たちを並べるところが面白かったり好きだって言う人もいると思うけどね。
取り敢えず、オセロが好評そうでよかった。
今のところ売るつもりは無いし、実家の商売を手伝うのは禁止されてるから出来ないけど。
ん?自分で商売するのは良いのかな?
能力を使わないで、此処からあれこれ指示を出したり商品の開発をしたりすれば許してくれるかな?
そうなったらオセロはもちろん、将棋とか囲碁とか、いろんなボードゲームを作り出して…もといパクって、この世界に娯楽を提供しようかな。
「ほら、シヴィの手番」
「あ、はい」
取り敢えず、目の前のお姫様との対局に集中しなければ、不敬罪で首チョンパになるかも。
なんてね。
次回の更新は9月5日の午前0時です。




