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酔いどれたちの合唱




「あー美味しかったぁ」

「パンにオレンジを加えたものがあそこまで美味しいとは、全く予想もつきませんでした」

「美味しかったよねぇ!パン全体にオレンジの風味と、仄かに柑橘の酸味と甘みがあってすぐに食べ終わっちゃったよ!」

「スライスされた皮が入っていたのも良かったです。微かな苦味と芳醇な香りが口いっぱいに広がり、あの食感もまた美味しさを際立たせてるように感じました」


 おお!グルメリポーターの才能があるよ!

 でも確かに美味しかった!

 地球でも食べたことあるけど、そのパンと比べても全然遜色がないよ!優しい甘さが、将棋で酷使した脳を回復させてくれたように思えたよ!


「さぁて、次はどうしようかなぁ」

「姫様にお土産をお買いになられては?」

「ああそうだね!すっかり忘れてたよ」


 お土産、何が良いかなぁ。

 残るものだと思い出として分かりやすくて良いんだけど、センスとか相手の好みによって選ぶのは大変なんだよねぇ。

 あと、貰った方からしては、何かよく分からないキーホルダーとかご当地グッズとかだと、引っ越しとかの際に捨てて良いのか迷っちゃうんだよね。

 貰い物だから気が引けると言うか…。


 その点、無くなるものならそう言った心配はないけど、手元に残るのは入ってた缶とかだけだから少し物寂しい気もするんだよね。

 考え過ぎかな?


 お土産を選ぶ為にあっちへフラフラ、こっちへフラフラ…千鳥足だよこれ…。


「なにこれ?」

「すらいむまくら?初めて見る物ですね」

「それは最近流行りの枕ですね。魔物のスライムって居るじゃないですか?そのスライムを模して作られた枕だそうです」


 へぇ〜。なんか見た感じ、ゼリーに似てる。

 大きいゼリー。


「夏はひんやり冷えてて心地が良いとの謳い文句ですが、さっきも言いましたが最近出た商品ですから本当かどうかは…」

「そうなんだ。でもさ、コレから暖かくなって来て夏が来るんだから、今から売り出してもおかしくはないよね?」


 地球でも、夏の終わり頃には秋服から冬服に売り物が変わるなんてこともあったし、その季節になってから売ってるようじゃ遅いんだよね。

 『寒いから買おう』じゃなくて、『寒くなりそう。これから寒くなる』から買うんだよ。


 でもちょっと早い気もするけどね?


 それに、これを僕が個人的に使うなら別に問題はないんだけどさ、コレがお姫様のお部屋のインテリアにマッチするかなんだよね。

 十中八九マッチしないと思うけど。

 あ、でも、僕のお屋敷の方にも部屋があるし、そっち用に買うのなら有りかも。


「すいませーん!これを2つ下さい!」

「あいよ!豊胸枕を2つね!」


 はいぃぃ????


「あの、スライム枕が欲しいんですが?」

「ん?ああ、スライム枕ね。あれ、本当の名前じゃないんだよ。本当は豊胸枕って言うんだけどさあ、誰かがスライムに似てるって言い出してからスライム枕って広まっちゃったんだよ」


 なんてこった…。そんな物お姫様にあげて良いとは思ないんですけどぉ?

 別に商品を貶してるってわけじゃないけど、もう少し商品名を考えようよ…。

 断然スライム枕の方がいいって。


 なんでそんなマニアックな名前をつけたんだか不思議でしょうがないや。


「はいお待ち!豊胸枕2つ!ニコイチ価格で2割引ね!」

「あ、どうも」


 はあ、なんか疲れたよ。




「ただいまー」

「おかえり」

「あ、来てたんだね」

「ん。将棋してた」

「あ、そうだお土産。はい、スライム枕」

「おおおー。プニョプニョ。私の部屋で使う。ありがとう」


 言えないよねぇ…。枕の名前。

 ごめんね、おじさん。


「久々の城下はどうでしたか?」

「うん、楽しかったよ!将棋の面白い遊び方を考えてた人が居てね、なんかチェスとルールが混じってるんだ」

「それは……良いのですか?」

「楽しくやってるなら良いんじゃない?遊び方は人それぞれだしね」

「ん。ルミル、今度それやってみよう」

「あ、おかえりなさいませ」




 夜中、気配を感じて目が覚め、刀置きに置いておいた中脇差を手に取った。


「はぁ、脅かさないでよね。何か用事?」

「ああ」


 全く…。

 でも、刀を拾う動作がスムーズに行って良かったよ。

 普通、刀置きに刀を置く時っていうのは、太刀なら反りを上向き(刃を下向き)にして柄を左で鞘尻を右に置くのが作法なんだ。

 打刀なら、反りを下向き(刃を上向き)にして柄を左で鞘尻が右。


 なぜかと言うと、刀を右手で抜くから。戦時ではなく平時ですよーってことを意味するんだ。


 だけど、僕は忍びだからね。お武家様の作法は忍びにゃ関係にゃいんじゃ。

 だから、横置きの刀置きには上段に脇差、下段に打刀を戦時方式で置いてあるんだ。あと、ベッドの右手側にね。


「それで?」

「その刀は実用的だな」

「ん?ああ、黒木墨塗(こくぼくすみぬり)って名前をつけたんだけどね、これは光を反射しないようにしてるから夜に使う目的で造ったんだ」


 黒木墨塗、部類としては中脇差になって、刃長は43cm。護身用に造ったものだから、しっかりと鍔も付けた状態で置いてあるんだ。

 本来、刀の鞘は外出する時に拵と言う服に着せ替えるんだけど、家にいる時は白鞘という寝巻きを着せるんだ。


 僕のは全部拵だけど。手入れするから。


「実は怪しい動きがあってな、どこかの地方貴族がアンタの事を知って、何か企んでるようだ」

「ふぅん。それだけ?」

「いや。今わかってる段階では、おそらくかなりの腕の人間を雇っていると言う事だけだ。もちろん危害を加えさせるようなヘマはしないが、情報だけは渡しておこうと思ってな」


 うん。それは普通にありがたい。

 何も知らなければどうしようもできないけど、知っていれば警戒くらいは出来るからね。


「ああそれと、近々弟子を取る予定になってるから、気配隠しや隠密が雑でも気にするな」

「はい?いや、気にするなってさぁ、無理でしょ。いや出来るよ?できるけど…はぁ。せめて1回くらいは顔合わせさせてね。じゃないと気配覚えられないから」

「ああ、もちろんだ。じゃあな」


 別に弟子を取るのは問題ないし僕がとやかく言えることじゃないけど、頭の上でモゾモゾやられてると気が散っちゃうでしょ?

 その気配の持ち主が誰かわかってれば、無視することも出来るけどさ。


「……せっかく刀握ったし、刀身を眺めてから寝よ」


 右手で柄を持ち、左手で鞘を持つ。

 刀の刃を上向きにした状態で、柄頭を自分側に向け、鞘尻を向こう側に向ける。

 太ももの上に乗せた状態で、右手の親指で左手の親指の付け根を押す形で鯉口を切り、柄を持つ右手を後ろに引いて、鞘を持つ左手を前に押すようにして抜刀する。

 この時に気をつけるのは、ゆっくり抜くと手ブレで鞘の内側や刀身を傷つける可能性があるから、素早く行うこと。


 よく、刀の鯉口を少しだけ切った状態で眺める描写があるけど、あれはやっちゃいけないんだ。


 うん。我ながら良い出来だ!

 実は、黒木墨塗はニ振り目なんだ。地球で一振り打ってるから。


 (素手で)触らず、喋らず、ふざけず。

 この3つを守ることも大切なんだ。

 まあ、ふざけずって言うのは分かるでしょ?刀に限ったことじゃなくて、カッターや包丁、鋏とかの刃物を持ってる時は真剣を扱うように気をつける事。怪我で済めば良い方って事態に陥るかもしれないからね。


 で、触らずって言うのは、刀身を直接素手で触ってしまうと錆の元になるんだ。人間の脂って取れにくいみたいで、証拠隠滅の指紋を拭き取るのとは訳が違うみたい。


 喋らずって言うのは、これもまた錆の原因になるからなんだ。

 自分の気持ちを共有したいってのはわかるけど、唾液とか湿った息が掛かると、それだけで錆びてしまう可能性があるからね。

 人によっては懐紙を咥えたりする人もいる。


 なんだか、異世界に居るのに和が過ぎる気もするけど、忍者的にはまだまだ足りないんだよね。


 まあ良いや。もう寝よう。





 お読み頂きありがとうございます!


 今更ですが、刀については一応調べてます。

 それでもおかしな部分があると思いますので、変な部分や間違ってる情報等が有れば、教えて頂けると幸いです。



 色々時間を変えて投稿してきましたが、2時・17時・23時辺りが良いと思いましたので、次回からは23時で固定したいと思います。


 と言う事ですので、次回は14日の23時となります!



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