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なるほど、それは喧嘩売られてますね



「さっきの話の中で一つ気になったんですが、こちらの伯は国境伯爵と名称されてるのに対して、なぜヤンジェロ公国の方は辺境伯なんでしょう。その土地は辺境地なんですか?」

「まさか!あの付近一体はヤンジェロ公国との最前線を担う場所ですので、王都並みとは行きませんがそれに類するくらいに発展しております!」


 うん、そうでしょうね。

 国境近くに街があってそこが防衛前線だとするならば、そこには多くの兵士と場合によってはその家族も赴任する事になるはず。


 元々の街は『町』だったかもしれないけど、人の集まるところに商機も集まるんだからさらに人が増えるわけで、そうなったら辺境とは呼べない様に栄えると思うけど。


 武具防具屋、飯屋、娼館、服屋、雑貨屋、病院などなど。挙げたらキリが無いよね。

 港町の発展と同じ様な事だろうさ。


 少なくとも辺境じゃ無いと思うんだけどね。

 挑発されてる様にしか思えないよ。


「この際ですから手酷く痛めつけましょう」

「と、いいますと?」

「投石器を用いて損害を与えるとか、火矢を射掛けて陣を燃しましょう。あと、こちらが火でやられ無い様にする必要もあります。まず、拒馬を3段にして設置します。1番川に近い1段目は恐らく燃やされるでしょう」


 投石器を使えば密集してるところに効果的に打撃を与えられるし、火矢で火事を起こせば消火活動をしなければいけない。

 だけど、消火に使える水場は国境とする川のみだとすれば、水の汲み上げとその護衛で人手が取られることにもなるよね。


 連日連夜の銅鑼での睡眠妨害と重なれば効果は高いと思うんだ。食糧庫に飛び火したら尚よし。


 難点は恨みを買うことだね。今更だけど。


「再起不能とまでは言いませんが、うぅーんそうですねぇ…だいたい1割も削れば壊滅的でしょうね。3割も削ったら大敗です。これは言う必要はないと思いますが」


 僕の様な裏としての役割を持つ諜報活動者ではなく、職業軍人の総司令さんに取っては釈迦に説法だと思うけど。


 この何割って話は、全て戦死者の話ね?実際には負傷者とかその介抱とかでもっと掛かる。戦闘状態が出来ないのは…4〜5割くらいになるんじゃ無いかな?

 そうなったらもう、軍としての維持は出来ないよね。敗走必至。

 だからこそ、まとまってる時に逃げられる様にするのが良将なんだと思うし、そのためには死地となる殿をおく必要もあるんだ。


「なるほど…。投石器を十分な数作るのに2日と掛からないでしょう。その時の端材を使って串を作ったり拒馬を拵えれば、時間と資材の短縮にもなりますな。銅鑼の方なら2時間も有ればできましょう」

「となると、相手が敗走・壊走・撤退のなんにしても、そこに至るまでには…1週間くらいですか」

「ですな」


 今まで僕自身が実感することは無かった念玉の恩恵を、まさかここで得られる様になるなんて思いもしなかったよ。

 まあ、僕自身が使うわけじゃ無いから直接の恩恵はないけど。


 ともかくこれで、東側の戦況は落ち着くと思うね。こっちの有利で。


 今後はこの世界の歴史書とか戦術書を読んでいこうかな。


「じゃあ東側の問題は終わったとしましょう。次の問題は南なのですが、南に位置する国はハラハヤ共国という国です。彼の国は自由主義国家と謳っており、一個の国として纏まってはいますが、実態は各地の領主が小国の王として君臨していふと言うのが正しいです」


 アメリカ合衆国みたいな感じかな?

 それぞれの州によって法律が異なり、その州の州法を元にして裁かれる。けど、国としては大統領を中心として纏まっている連合国…みたいな。


「攻撃の予兆があるのはその内の一つで、ハリス男爵の領地内にて動きが見られるそうです」

「なるほど。数は?」

「把握できてませんが、1万ほどかと」


 かなりだなぁ…。それなりに大きい領地を持っていて、領地運用は順調だと見れるね。

 足元が固まってないのに1万も兵を出せないからさ。


 多分、向こうは国境付近にまで進軍して来て駐留し、『我々は軍事演習を行なっているから気にしないで欲しい』とか言ってくるんだろうなぁ。


 めんどくさい。


「地形はこちらも川が国境となっておりますが、長さ100kmほどあり、戦域予想地の川幅は200mほどで、水底が深いために船での移動が主になっております」


 大きい。大きい川だなぁ。

 そんな場所で軍事訓練ってさぁ?船を用意してあれば侵略します!って言ってるのと同じじゃ無い?

 でも、そうであるならそこまで難しくは無いかな。

 深いと言っても多分木舟で平底だろうから、火矢を打ち込めば沈んでいくと思う。

 魔法でもいいけどさ。


 あとは、東側でやるのとほとんど同じ事をすれば負けないと思うな。

 こっちの河川敷に乗り込んできたとしたら、相手にとっては背水なんだから無茶苦茶気合い入ると思うけど、言い換えれば後がない諸刃の剣なんだから。

 少し劣勢になれば脆く崩れ去るに違いない。

 まぁ、決めつけるのは良くないけどね?


「こちらの抑えは?」

「イェット・ジュミス国境伯です。兵数は約1万5千」


 ん?1.5倍も居るじゃん。その上で防衛なんでしょ?そう易々と負ける事はないんじゃない?


彼御仁(かのごじん)は水戦防衛の達人でして、『断崖絶壁』の異名をお持ちです」

「それでしたら僕の出る幕はないと思いますけれど?」

「まぁー本来ならそうなのですが…御歳98歳のご老体でして」


 ふぅん、98歳か…。まだまだ若いんだね。

 我が家(雲隠家)なら、あと50年は最低でも生きるよ?最低でもね?

 家系図見ると、老死以外の死因はないんだ。

 戦国まで遡れば、何人かは切腹した様だけど。


「いつ隠れ(召され)てもおかしくないと?」

「…まあ」

「そうなった時の遺言や、跡を継ぐ人はいないのですか?」

「居ます。国境伯の孫にあたる直系が。しかし、家督を継ぐのは孫だとしても知識までは継げませんから」


 確かにそうだね。それなら、お弟子さんとかを軍師として据えれば良いと思う。

 流石に、98歳のご老体の弟子とは言え、60代くらいの人も居るでしょ…。

 居なければ孫弟子とか?


 何で僕がそんな事で悩んでるんだ?


「その断崖絶壁と呼ばれる人のお弟子さんなら適任ではないですか?例え伏した(亡くなった)として、まずはそのことを知られない様にする必要が有ります。敵にも味方にも」


 よく言ったもんだよね、『敵を騙すなら味方から』なんてさ。こんなのただの後付けの言い訳でしょ。それを多用したらいずれは信頼を失い、オオカミ少年の様になると思うね。

 その状態をこう言う『策士策に溺れる』って。


「最悪、影武者を使って下さい。要するに替え玉ですね。国境伯には『今直ぐに体調を崩したふりをして天幕に入り、やり取りは一部の者だけにして、中に入らないのであれば他の者との会話もする』とお伝え下さい」

「ふむ。ふむ」


 そうすれば、いざと言う時にも関わる人が少なく、露見する恐れが低くなるんだよね。

 しかも、ずっと天幕に居れば替え玉もバレにくいでしょ?その人の演技次第だけど、姿を見せるわけでもない、ましてや風邪気味ということも踏まえればバレない。


 あとは、混乱が起きない様に少しずつ『〜と仰せだ!』の頻度を減らせば良い。ある程度のところで打ち明ける必要はあるけど、上が纏まっていれば混乱も少ないはず…何だよね。


 まあこれには、『孫の人徳が高い』『孫の経営手腕が水準以上。若しくは執政官が優秀』『その時点で有利であること』『新任軍師の方針が受け入れられる範囲内』と言うことが必要だけど。

 そこら辺は僕の仕事じゃないからまあ良いかなと思う。


「あとはその場の流れでどうとでもなると思いますよ?近くに砦を建てるのをお勧めしますが、なくても負ける事は無いでしょうね」

「なるほど。うむ分かった!取り敢えず迅速に行動しようと思います。いやぁ助かりました!」


 別に良いけど、僕は軍人さんじゃ無いんですよ?

 忍者ではありますが、裏の者と表の者は考え方が異なりますよ?言いませんが。


 ウィーの書いてた紙を手に、出て行こうとして固まる総司令。


「あのぉ〜…」

「むり。諦めて」

「…はい」


 ああ、炬燵ね?出られないよねぇ?分かるよ。

 ルーは(にべ)も無く断ったけど、近々ラン商会から手に入りますよー。


「うぅ…名残惜しい」

「あはは…」


 わかる!分かるよぉ〜その気持ち!だけど、国境で怪しげな行動があるんだから早く行ってくださいよ。

 はーい、人払い解禁でーす。

 え?美味しいお茶菓子がある?食べます!






 お読みいただきありがとうございます。


 次回は10月2日の6時です!

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