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うん、なんで?



「王手」

「ぬぬぬ」


パチリ


「王手」

「ふぬぬ」


パチリ


「ふぅ。詰み」


かこーん…


「むむむむむ、シヴィ、強い」

「まあね」


 最近のルーティーンは、朝起きて朝食を食べ、王城書庫から借りてきてもらった本を半冊分くらい読んだ所でルーが来て、炬燵であったかい紅茶を飲みながら将棋を指す。

 コレが一連の流れなんだ。


「でも、ルーの頭の良さには驚くよ」

「えっへん」


 僕は先人達の戦法をまねてるだけだけど、ルーはその下地が無い状態にも関わらず、囲いを使って王を守ってる。

 下地がないってのは嘘か。チェスも似たような盤戯だし。


 ここまでなら別に何の問題もなかったんだよ。

 そう、ここまでなら、いつもの日常の同じ光景だし。


 じゃあ、何が問題なのかと言うと…。


「コレは面白い。将兵の育成にも役に立ちますなぁ」

「ん。私もそう思った」

「あと、このコタツというのもいいですな」


 ここに中央軍事統括総司令様が居るのが解せない。

 理由は聞いたけどさ。


「それで、一局終わったようですので本題に入らせて頂きたい」

「なんです?」


 もう面倒ごとの匂いがぷんぷんするから、あえて突き放すような感じで対応することにしたんだけど…僕としては、その口を閉じたままおかえりいただくのが1番です。

 将棋も炬燵も上げるからさ。


 わざわざ人払いまでさせるし。本当に…。


「実は、南の国境付近で怪しい動きがあるとの事なのです。また、公にはされていないことなのですが我が国では現在、東の隣国ヤンジェロ公国と散発的に小規模な競り合い(小競り合い)が起こっています」


 何で僕に軍事の話をするのかなぁ…。

 僕はご隠居様だよ?それも、元商家の!

 確かに僕は異世界からの転生者だし、その異世界である地球では特殊な家系にいたけど!

 そんなことはこの世界で知ってる人がいないわけなのに、なぁんで戦争の話をしてくるんだろうかね。


「それで?」

「このような事を戦争の素人に言ったところでわかりかねると思いますが、我が国が現在求めているのは高い技術力です」


 あぁなるほど。要するに、以前僕が図面を書いてカランさんに献策したスプリングの件があり、今回は盤上遊戯の将棋を発明した事もあって、何か僕から知恵を搾り取れないかって思ってるんだね?


 オセロの事もあるし、この間来たギルバラ王国からの魔の手も、この僕自身が捻り上げて捕まえた事も伝わってるんだろうなぁ。

 となると、この話は総司令様の独断じゃないね。


 で、僕に知恵を出せと。本当のご隠居様じゃん。


「聞けば、様々なものを考案されており、見れば聞きしに勝るような物ばかり。どうかお知恵を貸してくれませんか?」

「……そうは言われましても…」


 そもそも立地がわからない、気候風土がわからない、彼我の戦力がわからない、士気がわからない。

 何もわからないのに何を考えろと?


 僕は忍者の教育を(前世で)受けたけど、見てない聞いてないモノに何も言えないよ?


「はぁ、仕方ない。ここはルーの顔を立てて何か考えてみますが、咄嗟に思いつくような事なら誰かがやっているはず。あまり期待されないようにお願いします」

「おお!快諾頂けて何よりです!早速戻って陛下にお知らせをして参りましょう!」


 いやいや、逃しまへんでぇ〜?


「まあ待って下さい。このようなことが今後無いようにする為には、ちゃんとした書類をお持ちください。以後は、政治のみならず軍事への干渉も禁ずと」

「それは…」


 それが最低条件でござい。

 そもそも、僕は11歳のご隠居様なんだよ?そこらへん分かってる?


「じゃあ、そのどっちの国でも良いので詳細を教えてください。あと、小戦状態の仔細も」

「はい」


 はい、もう嫌です。何回目か分かりませんが、もう嫌です。

 普通、僕みたいな子供にこんなこと言われたらどう思う?

 『テメェみてえなクソガキに、(まつりごと)や軍事の何がわかるってんだ!生意気なこと言いやがって!』ってなると思うんだよね。


 少なくとも僕ならそうなる。

 何か色々開発してる、なんかスキルでバカやって軟禁されてる、なんか実力も相当あるらしい…みたいな事を聞いて、その上初対面で『取り敢えず色々分かってる事教えてくんね?』と来れば、調子に乗ってると考えるね。


 だけど僕は忍びだし、感情を表に出さないようにする事も(前世では)容易にできる。


 何が言いたいのかと言うと、この人も僕と(最低でも)同じレベルの腹芸ができるって事。

 厄介極まりないね。


「まず、現在散発的な小競り合いが起こっているヤンジェロ公国の事から話します。我が国のヤンジェロ公国との国境に位置しますユゼフォカ・サルヴレオン国境伯と、公国のクッキー・ワバラッジュ辺境伯が国境を挟んで向かい合っている状態です」


 ん?国境伯って言う爵位は初めて聞くけど、意味としては理解できるんだ。この国での爵位の何処に値するか分からないけど。


 問題は、クッキーさんの方。辺境伯って叙爵されてる様だけど、辺境なの?


「双方の戦力ですが、サルヴレオン国境伯からの報告によれば、国境伯は2000、公国辺境伯は約3500の兵を動かしているそうです」

「ん〜…多少の差異はあると思うけど、だいたい国境伯は1900〜2100人くらいで、辺境伯の方は3200〜4000くらいかなぁ」

「同意見です」


 小戦状態の相手にたいして、『貴軍は如何ほどの兵数をお集めになられましたかな?我が軍は5000は居りましょう』なんて言ったところで、返ってくるのは『あほか』って言葉だけだろうね。

 まあそうなると、定石通りに目算で調べるしか無いんだけど、動いてる人数を調べるなんてのは至難の業なんだよね。


 それでも、恐らくは暗部の人が侵入して情報を集めているだろうから、ある程度の数は正しいと判断した上での概数がさっきの数字なんだ。


「兵種は、自国軍は歩兵700、騎兵200、弓兵500、魔法兵50、輜重隊550。おおよそ2000の内訳はこの様な感じです」


 なるほど。戦国の世と余り変わらないなぁ。

 鉄砲隊の代わりが魔法兵で、歩兵には槍や盾、衛生兵も含んでいるんだろうね。


「公国は歩兵1000、騎兵600、弓兵600、魔法兵120、輜重1200ほどです。戦場は、国境となっているラマン川を中心としており、主に領土侵犯に対して守勢に徹しています」


 ほーん…え?なんでわざわざ攻めにくい川を挟んで戦争してるのかな?

 まあそのおかげで、倍近い兵数の相手に対しても守れてるんだろうけどさ。


「川幅は60mあり、1番深い場所で70cmほどはあり、浅くても30cmはあります」


 はい、下策。下策も下策でしょうが。相手さんは何を考えてそんなところから攻めようとしたんだろう。

 普通に考えて、川を渡り終わるまでに弓と魔法で攻撃されて被害甚大でしょ。


 騎馬突撃をすれば素早く少数は渡れるけど、そんなの分かってるんだから対策も立てやすい。


「本日で15日目になります」


 と言う事は、向こうの士気はだいぶ下がってるんじゃ無いのかな?それなら引かせる事は簡単にできるね。


「分かりました。それじゃあ色々言ってくので…うん、ウィーは書き取りお願いね」

「はい」

「それじゃあまず、相手が騎馬で攻め込んできても対応できる様に拒馬を設置しましょう」


 拒馬って言うのは、まぁ読んで字の如くだけど馬を拒否する障害物だね。先を尖らせた木をバッテンに組み上げて作る簡単なもの。

 長篠の戦いで使われた馬防柵とは違うよ?

 作ったのを移動させる事も容易だし、この世界にも存在すると思うけど。


「それを設置したら、突破された時のことを考えて内側の地面に工夫します。先の尖ったものを地面に埋め、柔らかく土を被せて隠します」

「それは棘とかでも良いのでしょうか?」

「目的としては、歩兵に拒馬を撤去された時に起こり得る騎馬突撃に備えたものです。なので、鉄片や木槍などが良いです」


 馬とそれに乗った人間の重さを利用して、柔らかい土を踏んだ時に地面から飛び出す仕組みにするんだ。

 そうすれば馬は痛みに驚いて止まったり立ち上がったりすると思う。

 それだけでも勢いが殺せるから十分なんだけど、後続に押されて被害が増えたり、足元を邪魔して動きを鈍らせたり、落馬した人間にも槍などが刺されば完璧だね。


 殺す必要はないんだよ。わざわざ。

 怪我させればそれを運ぶために人手がいるんだから、結果的に見れば戦闘不能状態にさせることができるってわけ。

 ありがちな手だよね。


 籠城じゃないけど籠城戦みたいなものだし、なんなら砦とか築いちゃえば良いんだしさー。

 川挟んだ布陣なんて動きが少ないでしょ。


「あとは、夜は銅鑼を鳴らすのも良いですね」

「ど、銅鑼ぁ?」

「うん。只々銅鑼を鳴らすだけだと自陣にも影響があるから、何か囲いの様なもので左右と後方、あとは上を囲えば良いんじゃないかなぁ…」


 分かりやすく言っちゃえば、メガホンみたいにして音に指向性を持たせれば良いんだよ。

 そうすれば多少は自軍への影響を抑えられて、相手は音がうるさくて寝付きにくくなる。

 空腹と寝不足って言うのは抗いようのない人間の欲求だからね。それを阻害すれば、著しく士気が下がるに違いない。


「しかしそれだと味方からの不満もでましょう」

「そうですね。なので、寝る時にはワタか何かを耳に詰める様にすれば良いと思います。この時に詰めるのは片方だけで、もう片方は枕などで音を遮断するのが良いです」


 じゃないと、自軍の危機の時に音が聞こえなくて気がつけないから。どうせ寝てる時に体の位置を動かすんだから、寝る時は塞いでた耳が空くって寸法さ!


「後は……そうですねぇ、銅鑼を叩くのを1回銅貨1枚でやらせてみるのは如何でしょうか?」

「と言うと?」

「今回だけで15日間も緊張状態が続いているので、それ以前の分も含めれば相当な鬱憤が溜まってるかと思います。なので、『相手に恨みを込めて叩け!1回叩けば銅貨1枚だ!』とでも言えば、嬉々として参加するでしょう」


 本当は家に帰って休んだり家族と過ごしたいのに、攻めてくるからそれができないとなるとフラストレーションが溜まってるはず。

 だから、武力衝突以外で相手に恨みをぶつけさせる様に仕向ければそれも緩和されるよね。

 娯楽にもなるし、自分も叩いたんだから他の人が叩いてて煩くても『まぁ仕方ないか』ってならざるを得ない…って言うださんもあるし。


 銅貨1枚って言うのも、銅鑼を10回叩くだけでお酒一杯分の小銭が手に入ると考えれば高く思えるだろうしね。

 むしろ銅貨1枚より、10回で酒一杯の方が食いつきいいかも。


「なるほど。そんな考えがあったなんて驚きですなぁ」


 ま、睡眠妨害は地球からの輸入なんですけど。





 お読みいただきありがとうございます!


 次回は30日の7時です!

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