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オトコの姫とヒゲデブの騎士  作者: あしき わろし
11 オトコの姫とヒゲデブの騎士
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エピローグ

 青い空に雲が浮かんで、時折、午後の日差しを遮った。やってきた鳶が輪を描いて、遥か上空から見おろしていた。

 時折、馬車が小石を跳ねて揺れるが、三人は気にする様子もなく、空っぽの荷台に寝そべっている。荷物はそのへんに放り出して、慌てず急がず、気ままな旅路であった。



「さァて、どこへ行こうかねェ」



 スキピオがぼんやりと言った。



「このままだと、エカサ方面っちゅうことになるのう」



 カトーは、あいかわらず手を頭の後ろに組んで、ひょろ長い足を荷台からぶらぶらさせている。

 エカサ近郊から牧草を運んでいた牧夫に、また出会えたのは運がよかった。彼は気前のよく金貨をはずんだふたりを憶えていて、復路は無賃で送ってくれることになったのだった。



「まあ、お釣りってことにしとこうかね」



 人のいい牧夫は、そう言って笑った。

 ふたりに倣って寝ころんでいたミトラは、ふとカトーの横顔を見た。宦官に紛れ込むために顔を剃ったはずだが、一両日しかたっていないのに、もう山羊のような髭が揺れている。

 しばらく、そのまま眺めていたが、



「もう、いちいち驚いてやらん」



 そうひとりごちて、また視線を空に向けた。



「殿、なんか言いましたかいのー」


「なんでもなか」


「いっそのことエカサを越えて、砂海まで行っちまうか」


「ほーじゃのう。砂海渡りの行商が、小競り合いでもしとりゃーせんかのう」


「オカ・ワリ紛争だっけ?それ、もうやってねェのかな」



 ミトラは寝ころんだまま、



「第三次エカ・オカ紛争は二百年も前に終結しとっとばい。ばってん、ふたりとも紛争ばしとっとこで、なにしようと?ウチ、戦場荒らしはやらんとよ」


「んなこと言ってもなァ。じゃあ路銀はどうすんだい?金は天から降ってくるわけじゃないんだぜ……まァ、たまには降ってくるがよ」



 カトーが欠伸をして、



「砂海を転々として、土地ところの悪党をしごしてまわる世直しの旅もええのう。まず殿の正体をバラしての、ほんでも改心せんやつをぶちくらわすんじゃ」


「ははは、そいつァいいな。控えおろ~、こちらにおわす方はミトラ様なるぞ~、頭が高い!んでもって、カトさんスキさん、ちょっと懲らしめてやりなさい、ってか」


「嫌ばい!」



 跳ね起きたミトラが激しく拒否した。



「それ、お爺さんの話やなかか!」


「よー知っとんのー」



 そのとき、彼方から土煙をあげて、牧夫の馬車を追ってくる者たちがいた。

 その数、ざっと十人余。揃いの甲冑、揃いの剣に、みごとに統一された一挙手一投足……と言いたいところだが、どうもお疲れなのか、今ひとつあってない。

 先頭をきる真紅のマントもちぎれかけて、輝くようだった甲冑もデコボコになっているが、



「姫えええええええっ!」



 はた迷惑な元気だけは、いまだ人一倍のタケチウスが、まっしぐらに向かってくるのだった。



「そういや、あんな奴もいたっけな」


「生きとったんか。タケッチもなかなかのゴーケツじゃのう」



 その距離はぐんぐん縮んで、いまや馬上で叫ぶ切ない表情も見てとれる。



「我は目覚めたのでござる!これまで同様、いや、より強く、深く、激しく、狂おしく、姫をお慕い申し上げまする!」



 タケチウスは声も高らかに、



「なぜなら、我は悟ったでのでござる。愛に、愛に性別など関係ないと!」



 カトーとスキピオは顔を見合わせた。



「なにやら正しいことを言うとんで」


「いやー、堂々としたもんだ。殿、どうするよ。あいつの愛とやらを受けるかい?」


「嫌じゃあっ!」



 ミトラの顔から血の気がひいていた。唇は震え、肩をわななかせて、荷台の上を後ずさりながら、



「ふたりとも、なんで笑っとっとか!逃げえ、逃げえっ!」


「いいんじゃねェの?あいつ、大事にはしてくれるよ」


「なんでいっつも、そういう意地悪ば言うとね!あん人、どげん見ても普通じゃなか、きっと変態ばい。ふたりはウチを変態に引き渡すと?」


「変態か……耳が痛いのう」


「いいけん、ウチば連れて逃げんしゃい!」



 金切り声にウケまくっていたふたりは、ふたたび顔を見合わせて軽く頷きあうと、半泣きになっている主を仰ぎみた。



「殿ぉ……そりゃ命令っちゅーことでええんかいのう」


「め、命令っ!逃げえっ!」



 ひょろりと長いカトーと、小柄で丸々としたスキピオは、



「御意!」



 馬車から飛び降りると、荷台を力一杯押し始めた。

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