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オトコの姫とヒゲデブの騎士  作者: あしき わろし
11 オトコの姫とヒゲデブの騎士
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ミトラ入城

 やたらと高い天井を、装飾過多の列柱が支える謁見の間は、元老院では扱いつつ重要案件を討議する場でもあり、貴族でも招かれる者は限られている。

 もっとも現国王イフススメスが姿を見せなくなって久しいが、それでも壁には歴代王の肖像が、玉座を囲むように浮き彫られ、下座から見あげると、自然とヤゴナ王国五○○余年の歴史を感じさせた。


 だが……。


 そうは言っても、ここが本当に王の居城なのか。そう思わざるをえなかった。

 警備はあってなきがごとく。衛兵はヤゴチエヌス率いる宦官軍の攻城にかかりっきりなのか、さもなくば、もう逃げ散ってしまったのだろう。

 残っているのは、恐怖に震えながらも為す術を持たない貴族ばかり。しかも目端のきく者、多少の蓄えがある者は、衛兵ともども自主避難とんずらした後なのだった。



「いったい、どうする……」



 と、互いの顔色を窺っているのは、国王起床の儀に列席する権利をもった閣僚、すなわち王国の重鎮たちだった。

 ただし、元老院主席のナセルスはいない。かろうじて逃げもどった近衛兵によって、ナセルスの敗死が伝えられたとき、元老院を襲った恐慌状態パニックは、庶民のそれと変わるものではなかった。


 泣き喚く者。

 卒倒する者。

 席を立つ者。

 逃げ惑う者。

 踊りだす者。


 半刻ほど右往左往して、いつの間にかひとり消え、ふたり消え、残ったのは世渡りに疎くて寄る辺のない連中と、動くに動けない重鎮のお歴々なのだった。

 その重鎮たちとて、節義や責任感からこの場にとどまっているのではない。



「ヤゴチエヌスとて所詮は宦官。宦官のみで国家は立ちゆかぬ……はず」



 であるからには、国政を司る自分たちの手が必要となってくるはず……互いの顔を見交わす表情には、そんな期待が見え隠れしていたが、



「しかし、宦官だけでいくさをはじめる奴ぞ」



 問題はそこだった。尋常のことわりがどこまで通用するのか。その暴虐の度合いをはかり間違えば、待っているのは『死』でしかない。

 そんな危機にあって、



「然り。ヤゴチエヌスめが、どれほど我が国のことを慮り、この挙におよんでいるものか」


「そのことよ。憂国の志をともにするなら、我らをすげなくは扱わぬはずだが」


「しかし、それではナセルス殿が亡きものにされたことの説明がつかぬ」


「いや、ナセルスど……ナセルスにも周囲を粗略にあつかうところが、なかったとは言いきれまい」


「左様、あった」


「それがしは諌言をしたところ、大層、耳が痛かったとみえて、衆目のさなか口汚く罵られたことがある」


「小生などは、些細な落ち度を咎められて、あやうく爵位を落とされるところであった」


「なんの、わたくしなど……」


「それを言うなら、手前など……いや、ヤゴチエヌスの擁護をするわけでは、決してないが……」



 などと重鎮たちは、今は亡き出世頭への不満を小出しにして、念頭にあるのは保身ばかり。王都攻略におよんだ暴挙を詰る声もなく、むしろ誰にも気づかれないように、ヤゴチエヌスへと軸足を移しつつさえあるのだった。


 ミトラが飛び込んだのは、そんな、まさに亡国のさなかにある王国の中枢だった。



「陛下っ!」



 凛とした声が響きわたった。



「陛下はどこにおんしゃっとか!」



 驚く重鎮たち。振り返れば、あどけなさの残る少女が(当然、そう見えただけだが)輿入れ装束も艶やかに、美しい顔を昂然とあげ、澄んだ眸で空虚な風景を見まわしている。



「お……おぬしは?」


「ウチは国王陛下の第二子、ミトラばい」


「み、ミト……」



 重鎮たちはざわついた。ミトラ妃殿下?なぜここに?本物か?オラスマに輿入れをされたのでは?

 とはいえ誰か前に出るでもなく、ちらりちらりとミトラを見ては、額を寄せあって、ひそひそ。むしろ同僚のかげにかくれるように、小さくなって顔色を盗み見ては、またひそひそ。

 いつお帰りになられた?どうやって?オラスマから何ぞ言ってきたか?はやくも里帰りなどされては、国際問題になりはせぬか?本物だとして、の話だが……いやいや、お主、それをどうやって確かめるのだ?



「なんばしょっと!」



 囁きあうところを一喝すると、飛び退きへたりこむようにして、たちまち重鎮たちは平伏していた。



「陛下はどこにおんしゃっとか訊いとろうもん」


「そ、その……」


「早よう案内すっとばい。のんびりお喋りしとる時間はなかよ。それと!」


「は、はぃ……」


「誰か後宮に走って、アルカデウスとホノリスの両殿下をお連れしんしゃい」


「それは……」



 重鎮たちは顔を見合わせた。



「現在、後宮は宮女たちばかりにございまして、王妃様はじめ、ご食事、ご入浴も儘ならずに泣いておられるとか……」


「それがどうしたったい」


「いえ、ですから、お連れしようにも、後宮からご案内すべき宦官が不在の由にて」


貴様きさんら、ほんとの馬鹿ばいか!」



 さながら落雷だった。



「こんなときになんば言いよっとか!宦官なら、こぞってこの王都ば攻めとろうが。四の五の言わんと自分で連れてきんしゃい!」

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