生意気な殿だなァ
騒然としている王都の住民を知ってか知らずか、
「まァ、オレ自身にゃこの足があるから、わざわざ開門する必要はなかったんだがね。それによって亡国に直接、手ェくだしたわけだけど、籠城中に味方の首を斬っちまうような大将たもの、どのみち、もたなかったろうよ」
と、スキピオは相変わらず饒舌に語りながら、王都上空を飛んでいた。
屋根から塔へ、塔から高架水道へ、高架水道から円形競技場の五階席へ、五階席から大浴場の屋上テラスへ……。
屋上テラスの噴水を蹴って、
「ところが包囲してた敵の大将ってのが、また亜人嫌いでね。投降した亜人は片っぱしから斬首だよ。降伏した王族は手厚く保護され、こじんまりした領地まで安堵されたってのによ。まったく、何のために戦ってたんだか」
「※●∴∇!(>。<)Å∩?」
主従の契りを結んだばかりのふたりが、奇妙な会話(?)を交わしながら、ひときわ高い鐘楼を足がかりにまたひとっ飛び、王宮の堀と外壁を一息に飛び越えて、とうとうその中庭に降り立った。
「とどのつまり、村の爺ィが言った通りだったってわけよ。さあ殿、着いたぜ」
結局、城外からここまで一度たりとも地に足をつかなかった。さすがのスキピオも息があがって、膝に手をおき背中を大きく上下させている。
ミトラはよろめきながらも、
「そんなに……疲れるなら……黙っといたらよかろうもん」
「いやァ、さすがに足を使いすぎたぜ」
「ウチの気がまぎれるよう、気ばつかっちくれたんやね」
「へへ……それにしても、さすがは殿だぜ。途中で失神していたって、おかしくはねェんだがな」
「スキピオ……身体から煙が出とうばい」
「ははは、面白ェ表現だな」
そう答えるスキピオの全身からは、確かに湯気というより蒸気に近いものがたちのぼってあた。
そればかりか、荒い息をつく横顔も心なしか、いや確かにげっそりとして、頬までこけてきている。
「びっくりしねェでくれ。足を使いすぎたら、いつもこうなんだよ」
「……痩しぇたら男前っとね」
「できたら……あんまり見ねェでくれ。好きじゃねェんだ」
美意識の違いか、それとも忌まわしい記憶でもあるのか、スキピオはほっそりして、すっかり端正になった顔を、あげようともしなかった。
顔を伏せた姿勢のまま、心配そうに見守るミトラに、
「すぐには足が動かねェ。なァに、ちっと休みゃ大丈夫だから、殿は先に行っててくれ。すぐにいくよ」
「でも」
「時間がねェ。オレは大丈夫だから」
確かに一刻を争う。宦官軍が城門を破れば、それまでである。
中庭は三方を回廊に囲まれて、右手が元老院が開かれる議事堂、左手が官吏が詰めている行政府、そして正面が王の居城となり、その背後に後宮がひかえている。
城門で手一杯なのか、中庭には人の気配がなかった。ミトラは奥に駆けていこうとして、ふと足をとめた。
「スキピオ」
「なんだい」
「ウチ、思うんやけど。人種とか亜人種と関係なか。尻尾なんか、あってもなくてもスキピオはスキピオばい」
「お、おう」
スキピオは思わずやつれた顔をあげた。ミトラは顔を見ないよう視線をそらせて、
「それと、スキピオは運が悪かったとよ。亜人ってだけで疑うようなやつばっかりと思われたら、王族としては心外ばい」
「そ……そうかい」
「あと、過ぎたことは過ぎたことばい。これまでは運が悪かったばってん、これからもそうとは限らんたい。きっとよかことばあるって、ウチは思うと」
そい言い残して、ミトラは奥へ、王の居城へと駆けていった。
呆然と見送ったスキピオは、
「チキショー、自分だって大概な目に遭ってるくせによ……」
俯いたまま、むせび泣いていた。
「まったく、生意気な殿だなァ……」




