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オトコの姫とヒゲデブの騎士  作者: あしき わろし
11 オトコの姫とヒゲデブの騎士
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オトコの姫とヒゲデブの騎士

 カトーとスキピオは、拳骨をミトラの脳天にくらわせた。

 いきなりポカポカっとくらって、



「???」



 頭を抱えて見上げるミトラに、



「我りゃ、何を抜かしとんじゃ!命を粗末にしとったら承知せんど!」



 珍しくカトーが怒声を浴びせた。



「だって……」


「だってもクソもあるかい。どうにもならんで命の投げだすんは、結局、逃げじゃ。そがいなもんは勇気とも覚悟とも言わん。最低の最低じゃ」


「けど……」


「けど、なんなら。まだカバチたれよんか!」



 激昂するカトーを制してスキピオが片膝をついた。



「気持ちは、わからくはねェけどよ」



 と、目線をミトラに合わせて、



「誰からも生きることを望まれなかった。さっき、そう言ってたけどよ、オレたちが望んでる。それじゃ駄目かい?」


「え」


「見てくれの悪ィおっさん二人ですまねェが、オレたちゃ、お前に生きて欲しいと思ってんだ。どっち向いても目ェそむけたくなる世の中だがよ、ここはひとつオレたちのためだと思って、この世に見切りつけちまうような物言いはよしてくんなよ」



 ミトラは何も言わず、言葉の意味を考えるように黙り込んでいたが、やがて確かめるように呟いた。



「本当にそう思うと?」


「おう」


「じゃあ、ウチ、生きてもええと?」


「当たりめェだ。いいに決まってらァ」


「生きてええとね」



 立ちすくんだまま、ミトラは袖で目元を拭った。拭っても拭っても、涙はとめどなく溢れた。

 片膝をついたまま、落ちつくまでスキピオは声をかけなかった。その背後では、もらい泣きのカトーが袖口を顔に押し当てている。

 しばらくしてミトラが、思い出したように顔をあげた。



「でも、母上が……」


「さあ、そこでモノは相談だ。あんた、オレたちの主君にならねェか?」


「主君?」


「ほーじゃ。ワシらふたり、あんたの配下じゃ」



 ミトラは驚いて、



「な、なんで?」


「オレたちはな。微禄ながら、とある国で軍籍に身をおいてたんだ」


「その国は?」


「なくなっちまったよ。亡国の遺臣ってやつさ。まァ、いろいろあって、二度と誰かに剣を捧げるつもりはなかったんだが」


「もしかしたら、ワシら、忠誠を誓う相手を探しよったんかもしれんのう」


「だな。いい大人が情けねェが、好き勝手に暴れんのは得意でも、てめェで身の振り方を考えんのは苦手でよ。だから愚痴をたれながら諸国をぶらついてたんだが、何のことはねェ、捧げたはずの忠誠が宙ぶらりんで、引き受けてくれる誰かを、ずっと探してたってわけさ」


「はやい話が自主性の欠如じゃ」


「だから頼む。お尋ね者を抱えちゃ面倒くせェだろうが、見込まれたのが運の尽きと思って受けてくんな」


「頼まあや。この通りじゃ」



 カトーも膝をついた。

 ミトラはふたりを交互に見ていたが、やがてその突拍子もない申し出が、真心から出た本意と悟って、



「受けるばい」



 と、承諾した。

 カトーとスキピオは破顔一笑、小躍りしながら立ち上がり、



「よっしゃ。そうと決まりゃあ善は急げだ。あいにくとさかずきがねェから、こいつで一口ずついこうや」



 スキピオはブドー酒の詰まった皮袋を取り出して、



「急ぎの親子盃につき媒酌人は省略、口上人は手前が兼務いたします。手前、姓をスキピオ、名をプブリウスと発します。縁あって盃を受けますからには、親が白いと言えば黒でも白、すべからく承服すること、もとより覚悟でございます。本日より一命を差し出す決意にて、この盃、有難く頂戴致します」



 と、ぐびりとやってカトーに渡せば、



「手前、姓はカトー、名はマルクスでございます。今日よりミトラ親分に従う子分でございます。スキピオの兄弟分みたあには、ええがに口上が言えんけども、とにかく一生懸命つかえますけえ、ひとつ、よろしゅう頼んます」



 と続いて、皮袋をミトラに手渡した。

 どうしていいかわからないミトラに、



「格好だけでいいから、ちょっとだけ呑んでくれ。酔っちまうから舐めるだけな……そうそう。それでは、これにて親子盃の儀、無事に成就と相成りました。只今よりスキピオとカトーはミトラ親分に従う騎士として、滅私奉公に邁進する所存にございます」



 ミトラはまだきょとんとしていたが、スキピオは喜色を満面にして立ちあがった。



「よし。じゃあ本題に戻ろうぜ。殿、どうしたいか言ってくれ」


「と、殿ぉ?」


「そうさ。たった今からあんたが殿で、オレたちは殿に従う騎士なんだ。ご指導ご鞭撻のほどヨロシクとくらァ」


「ワシらは命じられたら必ずやる。殿にその価値があると見込んで誓いをたてたんじゃけえ、どんなことでも言うてくれたらええんよ」

 

「さあ、殿、どうしたいか言ってくんな」



 それでもしばらく戸惑っていたが、やがておずおずと、



「母上を……母上を助けたか」



 カトーとスキピオは異口同音に、



「「御意!」」



 と、また片膝をついた。

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