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オトコの姫とヒゲデブの騎士  作者: あしき わろし
11 オトコの姫とヒゲデブの騎士
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覚悟とゲンコツ

「ありがとう。ここでお別ればい」



 笑顔をみせて、ミトラはそう言った。



「ちょ、ちょっと待ちんさいや。なんでそうなるんじゃ」


「そうだぜ。あんまり急いでコトを決めるもんじゃねェよ。ま、まずは落ち着け。な?」



 カトーとスキピオのほうが慌てていた。

 ミトラは穏やかな笑顔のまま、



「本当によくしてくれたけど、やっぱり、ふたりは外国のひとばい。これ以上、深入りせんうちに逃げてほしか」


「逃げろって、お前はどうするんだよ」


「さっき、ヤゴチエヌスが言いよっと。ウチのこと殺そうとしたんは、今までウチの面倒をみてくれた人たちやったとよ」



 スキピオが小さく舌打ちをした。

 クソが、喋っちまいやがったのか。

 カトーも憮然として聞いている。



「こんことを母上が知っていようかヤゴチエヌスに訊いてみたら、知らんほうがよか言うて笑いよったばい」


「け、けどよ、そうと決めつけちまうのは早えんじゃねえか。ヤゴのクソ野郎も、おっかさんが知ってたとは言ってねェんだろ?思わせぶりなこと言っただけでよ」



 ミトラは首を振った。



「知らんはずなかよ。だってウチが輿入れしたら、おなごしやなかってバレて困ろうもん。ばってん、どうしたらいいか相談するとしたら、母上の周りには宦官しかおらんばい」


「それは……」


「だから母上はウチが殺されようことを知っとっと……というより、たぶん、そうなるのを望んどったばい」



 それでもまだミトラは笑顔だった。それがむしろ深く傷ついた心情をあらわしているのか、それともある種の悟りに近い心象なのか、表情からはわかりかねた。



「で……どうするんじゃ」


「王都に帰る」


「何言ってんだ。殺されちまうぞ」


「ウチ、誰からも生きていくことを望まれんかった。もう、ここいらでよか。みんなの望み通りになるたい」



 微笑んだままそう言うと、



「けどウチが死ぬかわりに、なんとか母上ば助けるばい」


「なに?」


「ヤゴチエヌスは母上も殺す気やけん、このままやと母上が危なか。ウチはおとなしく殺されるばってん、母上だけは助けてくれるようヤゴチエヌスに頼んでみるたい」


「ちょっと待てよ。おっかさんは、その、お前を……」


「それとこれとは話が別たい。母上は……やっぱり母上ばい。大事な人であることに変わりはなか」



 ミトラはあらためて頭をさげて、



「いろいろ本当にありがとう。これでもウチ、ふたりのこと好いとうよ。たまには思い出してくれると嬉しかね……さよなら。ずっと元気で」



 と言い残して踵を返し、ひとり歩いていく。

 カトーとスキピオはその後ろ姿を眺めながら、



「聞いたかよ、おい」


「聞いた」


「いくら母親つっても、てめェを殺そうとした相手だぜ。そいつを助けて、てめェはやっぱり死ぬんだとよ」


「らしいの」


「考えてみりゃあ、ヤゴナで育ってんのに、あいつはタカハ古王朝の宮廷言語を喋ってるよな。隔離されて育ったぶん、おっかさんの存在がでけェんだろな」


「母親を侮辱するなと、ヤゴチエヌスに一発、返しとったで」


「マジかよ。殺されかかって、小便を漏らすくらいビビりまくってんのにか」


「それでも譲れんところは譲らんのよ。我りゃー、同じことができるか」


「さてね……たぶん、無理だろうな。なんてやつだ」



 スキピオはぶるっと肩を震わせて、



「なァ、オレは腹きめたぜ」


「ワシもじゃ」


「だが、その前にやっとくことがあらァな」


「ほーじゃ。叱らんといけん」



 ふたりはいきなり走り出した。すぐミトラに追いつく。足音に気づいて振り向いたところに容赦なく、



「「ふんっ!」」



 ふたりして拳骨をかため、ミトラの小ぶりな頭に振り下ろした。

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