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オトコの姫とヒゲデブの騎士  作者: あしき わろし
10 暗君の治世はいくさだらけ
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暴獣 vs タマなし

「あれ!どゆこと?」



 大地を揺るがして迫りくるのは、数百頭はいようかという双角獣の大群だった。



「ウ、ウシケラトプス……?」



 その全長は四メートルに達し、体重は五トンにおよぶ。

 堅い皮膚に覆われた肉質の滋味故に、ひろく食材として共される大型獣が、野生本来の獣性を取りもどしていた。

 黒々とした土煙を巻き上げて、見る間に迫りくるその先頭は、すでに容貌がみてとれる距離である。



「ヒッ!」



 ひとりが言葉を失い、過呼吸のような悲鳴をあげた。

 巨大な角を振り乱し、口腔から唾液の飛沫を飛散させ、興奮のあまり白目まで剥いた表情に読みとれるのはどうみても、


『激怒』


 いったい、なぜ……という言葉すら出ず、信じがたい状況を睨んで仁王立ちのヤゴチエヌスに、ひょろりと痩せた宦官が駆け寄って、


「大変です!だいたい二百頭くらいのウシケラトプスが突撃してきます」


「ンなこと、見りゃわかるから!」


「あ、いま先頭が到着しました」



 さしもの精強を誇った宦官たちも、猛り狂う暴獣には、あらがう術をもたなかった。

 逃げ遅れた者から突き上げられ、投げ飛ばされ、踏み潰されて、



「だれか、タマゴでも盗んだの……?」



 という言葉をのこして息絶える。



「走ると追ってくるから、ヘタに動かないで伏せなさい!運がよけりゃ踏まれないから!」



 少なくない死傷者をだして、近衛兵団につづいて宦官軍団も壊滅の危機。

 とっておきの手勢を失うまいと、口から泡を飛ばすヤゴチエヌスに、ひときわ大型のウシケラトプスが、その凶悪な双角をむけた。

 先ほどの痩せた宦官が、


「あ、こいつは強くて体格のいい、群れのボスと思われます。もうこいつに十人が投げ飛ばされ、二十人が踏んづけられ、百人が串刺しになりました」


「大袈裟な報告をするンじゃないわよ」



 そう喚くヤゴチエヌスに、頭を低くしたボスが突進する。



「ぬんっ!」


「マジか」



 痩せた宦官は仰天した。

 なんとヤゴチエヌスは、自分の腕より太く長い双角をひっ掴み、荒れ狂う暴獣の突進をとめてみせたのだ。



「どっちが猛獣かわかりゃせんのう。もちいと顔を隠しとくんじゃったわい」



 と、宦官に化けていたカトーは、鍋のような兜を目深にかぶりなおした。

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