暴獣 vs タマなし
「あれ!どゆこと?」
大地を揺るがして迫りくるのは、数百頭はいようかという双角獣の大群だった。
「ウ、ウシケラトプス……?」
その全長は四メートルに達し、体重は五トンにおよぶ。
堅い皮膚に覆われた肉質の滋味故に、ひろく食材として共される大型獣が、野生本来の獣性を取りもどしていた。
黒々とした土煙を巻き上げて、見る間に迫りくるその先頭は、すでに容貌がみてとれる距離である。
「ヒッ!」
ひとりが言葉を失い、過呼吸のような悲鳴をあげた。
巨大な角を振り乱し、口腔から唾液の飛沫を飛散させ、興奮のあまり白目まで剥いた表情に読みとれるのはどうみても、
『激怒』
いったい、なぜ……という言葉すら出ず、信じがたい状況を睨んで仁王立ちのヤゴチエヌスに、ひょろりと痩せた宦官が駆け寄って、
「大変です!だいたい二百頭くらいのウシケラトプスが突撃してきます」
「ンなこと、見りゃわかるから!」
「あ、いま先頭が到着しました」
さしもの精強を誇った宦官たちも、猛り狂う暴獣には、あらがう術をもたなかった。
逃げ遅れた者から突き上げられ、投げ飛ばされ、踏み潰されて、
「だれか、タマゴでも盗んだの……?」
という言葉をのこして息絶える。
「走ると追ってくるから、ヘタに動かないで伏せなさい!運がよけりゃ踏まれないから!」
少なくない死傷者をだして、近衛兵団につづいて宦官軍団も壊滅の危機。
とっておきの手勢を失うまいと、口から泡を飛ばすヤゴチエヌスに、ひときわ大型のウシケラトプスが、その凶悪な双角をむけた。
先ほどの痩せた宦官が、
「あ、こいつは強くて体格のいい、群れのボスと思われます。もうこいつに十人が投げ飛ばされ、二十人が踏んづけられ、百人が串刺しになりました」
「大袈裟な報告をするンじゃないわよ」
そう喚くヤゴチエヌスに、頭を低くしたボスが突進する。
「ぬんっ!」
「マジか」
痩せた宦官は仰天した。
なんとヤゴチエヌスは、自分の腕より太く長い双角をひっ掴み、荒れ狂う暴獣の突進をとめてみせたのだ。
「どっちが猛獣かわかりゃせんのう。もちいと顔を隠しとくんじゃったわい」
と、宦官に化けていたカトーは、鍋のような兜を目深にかぶりなおした。




