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オトコの姫とヒゲデブの騎士  作者: あしき わろし
10 暗君の治世はいくさだらけ
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バカ王子と宦官軍

 エカサから山岳地帯に入り、国境をこえて砂海へ入ると街道の舗装路が途切れる。ゆえに商業都市エカサより隣国オラスマへと向かう物資は、国境付近で馬車から駱駝に積み替えられた。


 その国境付近をゆく一団があった。


 甲冑も美麗な美丈夫と、その家来二十名である。ただし馬上の美丈夫ことタケチウスは、元気一杯に暴れまわってエカサ暴動の一因となった、はた迷惑な活力を失っていた。



「ひ、姫……ミトラ姫……」



 タケチウスはひとりごちた。ほとんど涙ながら、というしおれかただった。

 侍従たちは当惑しきって、顔を見合わせるばかり。暴れるのは得意だが、知力は主と似たり寄ったりで、こんなときにどう声をかければよいか、誰も知らないのだ。



「嗚呼、ミトラ姫よ……」



 正と誤。

 善と悪。

 敵と味方。

 そして可能と不可能。


 あらゆるものを二元的に認識しているこの男にとって、女性との関係は結ばれるか、結ばれないかに帰結する。

 恋い焦がれた相手が女性ではなかった。ために結ばれることが叶わない。即ち、不可能。

 それ以外の価値基準をもっていない以上、それは相手との断絶を意味した。そしてそのようなとき、悲嘆に暮れるしか対処の仕方を知らなかった。



「若」



 と、侍従のひとりが言った。励まし方を思いついたのではない。何やら振りかえって後方をみていた。



「誰か追ってきます」



 タケチウスが物憂げな顔をあげて、緩慢な動作で首をまわすと、確かに通ってきた街道に、もうもうと土煙をあげて、およそ三十乗の馬車が迫ってくる。

 一乗にに三人と計算すれば、ざっと百人弱か。ゆったりとした長衣トーガに剃り上げた頭部、髭のない顔に薄い眉……。



「宦官……?」



 惚けたような顔でタケチウスが言った。

 彼の国にも宦官はいる。が、それと土煙をあげている馬車とが、うまく繋がらないようだ。

 さすがに侍従たちは剣の柄に手をかけた。宦官たちは武装していたのだ。槍を突き上げ臨戦態勢、いや、弓を構える者はすでに弦を放って、もう大気を裂く矢が唸りをあげている。

 すでに開戦しているのだ。



「なぜ宦官が?」



 手の早いタケチウスの部下も、完全に不意をつかれた格好だった。四人、五人が矢を受けて絶叫し、助け起こす間もなく三十乗の馬車がなだれ込む。

 ながでもひときわ大柄な宦官が、斬馬刀を振り上げながらタケチウスめがけて突進し、



「悪く思わないでよ。あんたに恨みはないンだけど、ミトラのことを喋られたら困るの」



 野太い声でそう言うと、斬馬刀を振りおろした。

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