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オトコの姫とヒゲデブの騎士  作者: あしき わろし
9 陽だまりのおさらい
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雲の彼方

「言いたくねェ」



 とスキピオは言うが、考えれば考えるほど、ミトラを殺す動機をもっていたのは誰なのか、嫌でも答えが出てしまう。



「第三王妃……つまり、ミトラの母親よの」



 カトーが感情のこもらない声で、



「まあ気休めを言うわけと違うがの、王妃ひとりで男児を女児と偽るのは無理じゃけん、身のまわりを世話する宦官も一枚噛んでたんじゃろ」


「まァな。それに国外から嫁いだ王妃にゃ兵を動かすツテがねェ。宦官長のヤゴチエヌスだろうな。そいつが、軍部に渡りをつけたんだ。野党のふりしてに殺せ、とな」


「だけじゃのうて、ミトラ側におった護衛の一部もグルと違うか。旧街道の小いくさで、余りに戦意がなかったのを憶えとろうが」


「殺される予定になってんのを、本気で護ろうとはしねェからな。だから適当に抵抗したふりをして、怪我しねェうちに退散しちまったんだ。死んだのは茶番を知らされてねェ下っ端だけってワケさ……けっ」



 スキピオは思わず拳を握りしめたが、振り下ろすところもなく、二度、三度と自分の掌を打った。

 やがて、ふてくされたように、



「嫌な話だねェ……オレはときどき、この世界ごと、ぶっ壊したくなるよ」



 そう言って、また空を見あげた。

 どこからか鳶がやってきて、高いところで輪を描いている。その遙か上に浮かんでいる雲は、じれったいほどゆっくりと、しかし気がつけば彼方へ流れているのだった。

 そんな雲を眺めながらカトーが言った。



「まあ、どうせ、このままじゃ終わらん」


「だろうな。ヤゴチエヌスのほうが、このまま黙ってるわけねェからな」


「ほうじゃ。必ず動く」


「なァ……王妃はどのへんまで、この絵図にかかわってんのかな」



 スキピオは物憂そうに、



「本当にミトラのおっかさんは、殺されるのが不憫で性別まで偽ったてめェの子を、今度は保身のために殺そうとしたのかな」


「そりゃ、訊いてみんとわかりゃせんわい」



 カトーは大きな欠伸をして、



「考えてもわからんことは、考えんことじゃ。どうせ、わかりゃせんのじゃけえ。そういうわけで、ワシぁ寝るわい」



 と、たちまち鼾をかき始めた。ふたりの会話はそこで途切れたが、



「すまねえなあ、お二人さん!」



 かわりに干し草の山の向こうから、大声で呼ばわる者がいた。



「どうも、この先を軍隊が行進してるようでねえ。勇ましいのは結構なんだが、兵隊さんは足が遅くっていけねえや」



 干し草を王都にちかいウシケラトプスの放牧地まで運ぶ、気のいい牧夫だった。


 ナセルスが突き返した金貨をみせたところ、小躍りして荷台に乗せてくれたのだ。もちろん、今度は本物の運搬夫であると、スキピオはきちんと裏をとっている。



「気にしねェでくんな。乗っけてもらってる身だからね。贅沢は言えねェや。それよりエカサの暴動は、あんたに影響ないのかい」


「なあに、こちとら気ままな牧夫だからね。街住みの市民サマとは世界が違うさ。それより急ぐ旅じゃなかろうね?なにせ軍隊ときたら、追い越そうもんなら、血相かえて怒りやがるからな」


「急がねえよ。ゆっくりやってくれ」



 スキピオはそう答えておいて、



「オレたちも、その軍隊に用事があるんだ」



 そう、ひとりごちた。

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