青空の下
「なあ。ここいらで状況を整理しとこうぜ」
「ん」
「なんだよ、気のねェ返事だな」
スキピオは目だけでカトーの横顔を睨み、また視線を空に戻した。
高いところに雲が浮かんで、時折、午後の日差しを遮っていた。
エカサの暴動はようやく下火になったが、まだ散発的な騒ぎがくすぶっていた。
暴動が沈静化したというより、暴れすぎて疲れたというべきか。荒らしまくるうちに幾つかの集団をつくり、最後は互いに削りあって消えたともいえる。
カトーとスキピオは城門を抜けるのに手間がかかった。ようやく今、ふたりの姿は、エカサ郊外の寒村から王都方面に向かって、干し草を運ぶ荷馬車の上にある。
「ま、いいや」
スキピオは寝ころんだまま、咥えていた干し草をぺっと吐き出して、
「まず、この国の現状だ。もっぺん図にしてみるぜ。復習だ」
国王イフススメス
││├─①王太子(死没)
││第一王妃
││
│├──②アルカデウス
│第二王妃 ・貴族ナセルス
│ ↑
│ 対立
├──┬③ホノリス ↓
第三 └┐ ・宦官ヤゴチエヌス
王妃 │
└ミトラ(女児の扱い)
↑
タケチウス(馬鹿)
※オラスマ首長国王子
「いっつも思うんじゃが」
「なんだよ」
「上の図、どこに書いとんじゃ」
「細けえこたァいいじゃねェか。おさらいだ。普通、①王太子が死んだら②アルカデウスの順番になりそうなもんだが、王太子の後ろ盾でもあった宦官のヤゴチエヌスが③ホノリスを親父のイフススメスに猛プッシュして、最近ちょい有利になってた。ここまでが、ナセルスのクソ貴族の話だったな」
「だったのう」
「ミトラは第三王妃の子……つまり、王太子候補ホノリスの兄貴にあたるわけだが、産まれた時分に女児と報告され、女の子として育てられた。そういう解釈でいいんだよな?」
「そうなるのう」
「そもそも、なんで、そんな面倒くせェことをしたんだろうな?」
「王太子が生きとったからじゃろ」
「あ、なるほど」
スキピオは指を鳴らして、
「ナセルスのクソ野郎が言ってたな。たとえ子供であれ、後顧の憂いになる存在は殺しとくってよ。王太子が即位したら、予備の王子は殺されちまうかもしれねェ。だからミトラのおっかさんは、子供かわいさに女児と偽ったわけか」
「浅知恵と言えばそれまでじゃが。王族の倣いとはいえ、気の毒なものよのう」
カトーが空を見あげたまま言った。
手を頭の後ろに組んで、ひょろ長い身体を干し草の山に投げ出しているが、長い足がはみ出して、宙ぶらりんに揺れている。
時折、馬車が小石を踏んで跳ねるが、干し草がいいクッションになって、乗り心地は悪くない。荷物はそこらに放り出し、大刀は鞘のまま干し草に突きさしていた。
スキピオも同じ体勢のまま、
「んで十数年たってみたら、王太子がおっ死んだ。それと相前後して生まれた次男坊が、宦官の激推しで王位継承レースをリードしてる」
「そうなると、ミトラの立場は微妙……はっきり言えば、邪魔じゃのう」
「おまけに姫として育てたもんだから、縁談まで持ちこまれちまった。そのうちにっちもさっちもいかなくなるって、わかんねェもんかな」
暗澹とした口調でそう言ってから、吐き捨てるように続けた。
「俺もすぐに気づくべきだったぜ。上の図で、こっそりミトラを消しちまいたい動機をもってる奴ァ誰か……畜生、言いたくねェ」




