ヒトデナシの晩餐
ミトラにはマントのかわりに、胸帯と腰布が与えられた。
いずれも女性が下着として着用するものである。肩にかけた薄いヴェールごしに、華奢で線の細い身体が透けていた。
ミトラは手折られた草花のように、力なくへたり込み、唇を噛み締めていた。
聡明なミトラには、胸帯と腰布にこめられた侮蔑的な意味がわかっている。
確かに、それらを身につけて座っている姿は少女にしか見えなかった。
青白い頬に悔し涙がつたっていた。
「泣くほどのことがあるか」
ナセルスはヤマイルカの心臓を咀嚼しながら言った。よく食べる男である。
「性別を確認したのが辛いかね。しかし、あれはオラスマの馬鹿息子を追っ払うのに、実に効果的だった」
答えるかわりに、涙を湛えた双眸で睨みつけられて、ナセルスは肩をすくめて嘆息した。
「ふん。子供のくせに」
ナセルスは汚れた指を拭いて、ヤマイルカの心臓を下げさせた。皿にはまだ半分あった。
間をおかず、今度は淡水フグの卵巣が運ばれてきた。もちろん猛毒だが、塩に数年浸けると、なぜか食べられるようになる。
塩気が強いので、炭で濾過した蒸留酒を一緒に運ばせた。ナセルスは塩漬けを口に入れたまま、蒸留酒を流し込むのが好きだった。
指でつまんだ塩漬けを口に放り込みながら、
「そんなことで、いちいち泣きを入れておるようでは、この先もっと厳しかろうな」
からかうようにナセルスは言った。
ミトラは震える声で、
「……ウチに、まだ、なにかすっと?」
「王都に還り次第、元老院を召集する。そこにイフススメス陛下のご臨席を賜り、ともども、第三王妃と宦官どもが企んだ偽証の証人になってもらう」
「そ、それって……」
「しかり。満場を埋める諸侯の前で、お前を素裸にせねばならん。宦官は元老院に列席できぬ。専横を恣にしたヤゴチエヌスも、これで終わりだ」
「い、嫌ばい!」
ミトラは絶叫した。
「なして……ウチ、何もしとらんばい」
「陛下は鷹揚なお人柄だ。ご注進しても内々に済ませようとなさるだろう。そうなるとヤゴチエヌスに反撃の余地をあたえる。諸侯が監視する前で、誰の目にも明らかな証拠を示してこそ、厳しい処断が可能となるのだ」
「そんな……」
泣き崩れるミトラをじっと見ていたナセルスは、また指を拭いて淡水フグの卵巣を下げさせた。今度の皿も半分以上が残っていた。
彼の食事はいつもこんな調子だった。そして次の皿がくる前に、ミトラを顎で差しながら、まるで料理に注文をつけるように、
「連れていけ。めそめそ泣かれると食事がまずくなる」
晩餐はまだ何皿も控えているのだった。




