愛しき姫の真実
ちっともわかってないが、ちっともへこたれないタケチウスは、
「で。ナセルス殿。我が愛しき姫は」
と、あくまで一直線だった。
ナセルスはやんわりとした口調で、
「ところで、なぜ、ここにいると分かったのでございますか」
「誰かが投げ文で教えてくれたのだ」
「その誰かとは、背の高いヒゲと、背の低いデブではございせんか」
「さあ?そこまでは」
「ふん」
ナセルスは小皿を引き寄せて、葡萄の種を吐き出した。その横顔に、ふと凶暴な一面がうかんでいる。
小賢しい真似を。やはり斬っておくべきだったか……柔和な表情にそう書いてあるようだ。
「まま、いいでしょう。これ、連れてこい」
ナセルスが命じると、ほどなくして赤いマントにくるまったミトラが引っ張られてきた。
あれから一昼夜たつというのに、まだ衣服もあたえられていない。
「く……」
男たちの前に立たされて、ミトラはマントを掻きあわせながら、無言でナセルスを睨みつけた。
「姫!」
駆け寄ろうとするタケチウスを、ナセルスは片手で制した。
それは穏やかな動作だったが、さしものタケチウスが、思わず踏み出した足をとめた。
「?」
疑問の眼差しを向けるタケチウスに、ナセルスは穏やかな微笑を返しながら、
「そろそろ殿下がお見えになる頃と思いましたので、直接、マントをお返ししようと、敢えてそのままにしておったのです」
「む。それは痛み入る」
「これ。そのマントを殿下にお返ししろ」
ミトラが唯一まとっているものを、ナセルスは無造作に“そのマント”と言い、そのまま“返す”よう命じた。
かわりに何か着るものを、とは言わない。
「し、しかし、それではナセルス殿!」
むしろタケチウスが慌てた。
「それでは姫が、いえ姫の……その、見えてしまうのでは」
「見えたとして、いかに」
「それは、もちろん嬉し……いや、困ったことになるのでは、その、嫁入り前の……姫の……裸……」
「タケチウス殿下」
ナセルスは姿勢をただし、あらたまって言った。
「我がヤゴナ王国は、貴国と殿下に深く謝罪せねばならぬやもしれません」
「は、はあ」
「もし、私の懸念があたっていたならば、貴国を欺こうとしていたことになる。そのときは関係者の首を差し出して、幾重にも、幾重にもお詫びいたします。これからすることは、その懸念を確かめるためとご承知おきください」
そう言われては、タケチウスも黙って見守るしかなかった。
ナセルスはあらためて、
「マントを殿下にお返ししろ」
その半刻後……。
へこたれないタケチウスもさすがに蕭然として、というより茫然自失の態で、静かに天幕を後にした。




