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オトコの姫とヒゲデブの騎士  作者: あしき わろし
7 エカサ脱出
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《三つ名》の貴族

 馭者はエカサ郊外に駐留している正規軍に、出動要請を届けにいくところだと言った。



「てェことは、おっさんは城門をくぐれるわけか。ちょうどよかった。悪ィんだけど、酒を酌み交わした誼ってことで、荷台に乗っけてくんねェかな」


「どうしたね。追われてんのかい」


「まァね。あいにくと持ち合わせはねェが、礼なら後で……」


「これで頼まあや」



 カトーは数枚のソル金貨を差し出した。



「んだよ。お前、オレに銭がねェかとか訊いといて、自分は隠してやがったな」


「とっておきじゃ。なにがあるか、わからんけえの」



 馭者は金貨に目を丸くして、



「そういうことなら早く乗んな。なにがあったか知らないが、困ってるときはお互い様だよ。さあ、手伝おう」


「ありがてェ。恩にきるぜ」


「お嬢ちゃんからだ。それ」



 馭者は運転台からおりて、ミトラを荷台に押し上げた。

 続いてスキピオが乗り込もうとしたが、なぜか馭者はその襟首を掴んで、乱暴に引きずりおろしたのだった。



「ってェな、なにすんだよ」


「気をつけるがよい。動けば首がとぶ」



 がらりと口調が変わっていた。


 いつの間にか七、八人の男たちが馬車を取り囲んでいた。

 そのへんで暴れている暴徒の雰囲気ではない。もっと日頃から暴力に慣れた、威圧的な空気をまとっていた。

 一様にまとった黒いマントから、鉛色の刃がのぞいている。


 スキピオは素早く相手を観察して、



「カトー、お前が背中をとられるたァな」


「油断じゃ。言葉もない」



 カトーも背後に二人ほどつかれていた。大刀を抜く暇もなかった。

 スキピオは首筋がチリチリする殺気を感じながら、促されて立ちあがった。

 同時に馬車にも黒マントが乗り込んで、ミトラを縛りあげている。



「んー!むー!」



 猿轡を噛まされたミトラの悲鳴を聞きながら、スキピオは敢えて平然と、



「おいおい。あんまり手荒に扱うと、後で知らねェぜ?」


「貴様等の知ったことではないわ」


「へー、強気だね。おっさん、あんた何モンだい?」


「常日頃であれば、貴様等のごとき平民風情が貴族に名を問う無礼など、許すものではないのだがな」



 丸めていた背も反り返り、顔つきまで尊大そのものといった表情に変わっている。



「わざわざ余のもとにミトラを届けにきた働きに免じて、我が尊名を拝する栄誉を与える。畏まって聞くがよい。余がエベケス・インケンティウス・ナセルスである」



 元老院主席の名門貴族はそう言って笑った。

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