謝罪
広場にはじまった暴動は、すぐにエカサの街のあちこちに飛び火した。
「へっ。人間なんて、あさましいもんさ」
スキピオは皮肉に笑って、
「富豪も奴隷も、一皮剥きゃ同じなのさ」
暴動をやり過ごしている路地裏で、きっかけをつくったひとりのくせに、そんなことを言っている。
「それはそうと、カトー。お前、ずいぶん手傷を負ったな。そんな手練れがいたのかよ」
「いや……これは違うんじゃ」
「ミトラのほうは大丈夫か。まあ、無事でなによりだ」
と、のぞき込んだ顔を、ようやくカトーの腕を振りほどいたミトラが、したたかに引っ掻いた。
「いってェな!なにすんだよ」
「ウチなんか放っとってって言うとろうもん」
「なんだってんだ。助けてやったのによ」
「だって、あんたらウチのこと、売りよっとろうが」
マントにくるまれた小さな身体が、恐怖ではない、別の感情によって、小刻みに震えていた。
「いや、それは、その……」
「ウチ、生まれて初めて誰かと一緒に、ご飯食べたとよ」
「なんだって?」
「嬉しかったばい。やっとウチにも友達のできたのごたやった。やけん次の日も、その次の日も、一緒に食べられると思うとったばい。できたらお家に帰ってからも、たまには遊びにきんしゃって……シャモキジとかホルモンとか、他にもウチが見たことない食べ物ば一緒に食べて……」
噛みしめた唇から絞り出すような声。
俯いた顔から涙がぱたぱたと落ちて、
「でも目が覚めたら……売られとったばい」
必死で抑えている嗚咽が、むしろ心をえぐった傷の深さを示していた。
カトーが悄然としてつぶやいた。
「やっぱり、そういう意味やったんよの……」
はじめて会った晩、山狩りをやりすごした後で、ブドー酒を前にしたミトラの一言に、どこか違和感を感じてはいた。
“飲み物は杯に入れてから飲むもんやか。みんな、そうしとるって聞いとっともん”
聞いとっともん。
ともに食卓をかこむ相手がいたのなら、そうは言わない。つまりマナーとしてそれを知っていただけで、実際に見たわけではないのだ。
「そういやァ、こいつの知識はなんでも、聞いたか、読んだかだったよな……」
スキピオも暗澹として言った。
ときに王位継承の候補として、反目しあう貴族や宦官に担がれる王の子供たち。ことに女児として扱われていたミトラなどは、その正体を隠すために、より孤独な幼少期をおくったとしても不思議ではなかった。
世話役の宦官にしても、候補どころか正体すら秘匿されている日陰者に、どれほど冷淡だったか知れたものではない。げんに同世代はおろか、ともに食卓をかこむ者さえいなかったのだ。
なんということをしてしまったのか。
それを思い知ったふたりは、やがて、どちらともなく姿勢をただして、
「オレの責任だ。本当に悪かった。勘弁してくれ」
「とんでもないことをしてしもうた。この通りじゃ」
と、深く頭をさげていた。




