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オトコの姫とヒゲデブの騎士  作者: あしき わろし
7 エカサ脱出
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謝罪

 広場にはじまった暴動は、すぐにエカサの街のあちこちに飛び火した。



「へっ。人間なんて、あさましいもんさ」



 スキピオは皮肉に笑って、



「富豪も奴隷も、一皮剥きゃ同じなのさ」



 暴動をやり過ごしている路地裏で、きっかけをつくったひとりのくせに、そんなことを言っている。



「それはそうと、カトー。お前、ずいぶん手傷を負ったな。そんな手練れがいたのかよ」


「いや……これは違うんじゃ」


「ミトラのほうは大丈夫か。まあ、無事でなによりだ」



 と、のぞき込んだ顔を、ようやくカトーの腕を振りほどいたミトラが、したたかに引っ掻いた。



「いってェな!なにすんだよ」


「ウチなんか放っとってって言うとろうもん」


「なんだってんだ。助けてやったのによ」


「だって、あんたらウチのこと、売りよっとろうが」



 マントにくるまれた小さな身体が、恐怖ではない、別の感情によって、小刻みに震えていた。



「いや、それは、その……」


「ウチ、生まれて初めて誰かと一緒に、ご飯食べたとよ」


「なんだって?」

 

「嬉しかったばい。やっとウチにも友達のできたのごたやった。やけん次の日も、その次の日も、一緒に食べられると思うとったばい。できたらお家に帰ってからも、たまには遊びにきんしゃって……シャモキジとかホルモンとか、他にもウチが見たことない食べ物ば一緒に食べて……」



 噛みしめた唇から絞り出すような声。

 俯いた顔から涙がぱたぱたと落ちて、



「でも目が覚めたら……売られとったばい」



 必死で抑えている嗚咽が、むしろ心をえぐった傷の深さを示していた。

 カトーが悄然としてつぶやいた。



「やっぱり、そういう意味やったんよの……」



 はじめて会った晩、山狩りをやりすごした後で、ブドー酒を前にしたミトラの一言に、どこか違和感を感じてはいた。



 “飲み物は杯に入れてから飲むもんやか。みんな、そうしとるって聞いとっともん”

 


 聞いとっともん。


 ともに食卓をかこむ相手がいたのなら、そうは言わない。つまりマナーとしてそれを知っていただけで、実際に見たわけではないのだ。



「そういやァ、こいつの知識はなんでも、聞いたか、読んだかだったよな……」



 スキピオも暗澹として言った。


 ときに王位継承の候補として、反目しあう貴族や宦官に担がれる王の子供たち。ことに女児として扱われていたミトラなどは、その正体を隠すために、より孤独な幼少期をおくったとしても不思議ではなかった。


 世話役の宦官にしても、候補どころか正体すら秘匿されている日陰者に、どれほど冷淡だったか知れたものではない。げんに同世代はおろか、ともに食卓をかこむ者さえいなかったのだ。


 なんということをしてしまったのか。

 それを思い知ったふたりは、やがて、どちらともなく姿勢をただして、



「オレの責任だ。本当に悪かった。勘弁してくれ」


「とんでもないことをしてしもうた。この通りじゃ」



 と、深く頭をさげていた。

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