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オトコの姫とヒゲデブの騎士  作者: あしき わろし
6 奴隷市場
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暴動

 タケチウスの振り下ろした一撃は、あわやのところで空を斬り、板張りの壇を叩き割った。



「えー太刀筋じゃ。タケッチ君、なかなか強いのう」


「誰がタケッチだ!」



 カトーは迫る追撃をかわしながら、

 


「ミトラまで真っ二つにする勢いよの。兄ちゃん、状況は見えとんか?」


「愛しき我がミトラ姫を腕に抱くとは不埒千万。剣の錆になって購うべき大罪である。そこになおれ!」


「やっぱり兄ちゃんには任せられんのう。悪いが連れて逃げるわい」


「ウチは放っとって!」



 上から見ていたスキピオが、そんな押し問答をしている真ん中へ、



「そうら、こいつで最後だ。お偉い連中も上品ぶってる場合じゃないぜ。拾いまくれ!」



 と最後の一抱えを投げつけると、壇上に跳ねた銀貨を追って、たちまち数十人が群がった。

 その重みで壇がぎしぎしいったが、そんなことには構いもしない人々が、身体を投げ出して奪い合う。



「ぬ。これ、どけ。どかんか!」



 貴きも貧しきもひしめき合って、身動きすらもままならない。

 やがて業を煮やしたタケチウスが手近の数人を手打ちにしようと、白銀に輝く刃を振り上げたとき、



「わ、わわっ」



 折り重なる悲鳴とともに、バリバリと音を立てて壇そのものが崩れ落ちた。もうもうと立ちのぼる土煙の中から怒号、悲鳴、うなり声。

 間一髪、頬を散々に引っ掻かれたカトーは、暴れるミトラを抱いたまま、からくも壇上から飛び降りていた。

 そこによろず商の亡骸をみつけて、



「巻き込んですまなんだのう。ワシらもじきにそっち行くけえ、許してつかあさいや」



 広場では 銀貨を広い尽くした人々が、今度は他人の懐を狙って分け前を増やそうと、まだそこらじゅうで悶着を起こしていた。



「おう、こっちだこっち」



 大浴場から降りてきたスキピオが、広場の端で手招きをしている。



「早ェとこずらかるぜ。見ろよ、噂をききつけて、街じゅうから亡者が集まってきやがらァ」



 遅れてやってきた人々は、チャンスに恵まれなかった不当を訴え、運よく広場にいた果報者に平等であるよう要求した。


 もちろん聞き入れられない。当たり前だろう。のこのこ今頃やってきといて、人の取り分を寄越せなんて、ムシのいい話があるもんか。


 遅参者たちは納得しなかった。たまたまその場にいただけで、独り占めとは了見が狭い。そもそも取得物はオカミに届けるのが決まりだろうが。なんなら手伝ってやろうか?


 また乱闘のゴングが鳴った。


 騒動は勢い余って広場からあふれ、やがて関係のない屋台がとばっちりの憂き目にあった。

 そのうち関係のないところで、徒党を組んだ若い衆が、手当たり次第に商店を狙いだす。

 通行人が襲われ、荷車はかっ攫われ、看板や戸板まで引っ剥がされる狼藉が、エカサの街全体に広がっていった。 


 もはや、まぎれもない暴動だった。

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