暴動
タケチウスの振り下ろした一撃は、あわやのところで空を斬り、板張りの壇を叩き割った。
「えー太刀筋じゃ。タケッチ君、なかなか強いのう」
「誰がタケッチだ!」
カトーは迫る追撃をかわしながら、
「ミトラまで真っ二つにする勢いよの。兄ちゃん、状況は見えとんか?」
「愛しき我がミトラ姫を腕に抱くとは不埒千万。剣の錆になって購うべき大罪である。そこになおれ!」
「やっぱり兄ちゃんには任せられんのう。悪いが連れて逃げるわい」
「ウチは放っとって!」
上から見ていたスキピオが、そんな押し問答をしている真ん中へ、
「そうら、こいつで最後だ。お偉い連中も上品ぶってる場合じゃないぜ。拾いまくれ!」
と最後の一抱えを投げつけると、壇上に跳ねた銀貨を追って、たちまち数十人が群がった。
その重みで壇がぎしぎしいったが、そんなことには構いもしない人々が、身体を投げ出して奪い合う。
「ぬ。これ、どけ。どかんか!」
貴きも貧しきもひしめき合って、身動きすらもままならない。
やがて業を煮やしたタケチウスが手近の数人を手打ちにしようと、白銀に輝く刃を振り上げたとき、
「わ、わわっ」
折り重なる悲鳴とともに、バリバリと音を立てて壇そのものが崩れ落ちた。もうもうと立ちのぼる土煙の中から怒号、悲鳴、うなり声。
間一髪、頬を散々に引っ掻かれたカトーは、暴れるミトラを抱いたまま、からくも壇上から飛び降りていた。
そこによろず商の亡骸をみつけて、
「巻き込んですまなんだのう。ワシらもじきにそっち行くけえ、許してつかあさいや」
広場では 銀貨を広い尽くした人々が、今度は他人の懐を狙って分け前を増やそうと、まだそこらじゅうで悶着を起こしていた。
「おう、こっちだこっち」
大浴場から降りてきたスキピオが、広場の端で手招きをしている。
「早ェとこずらかるぜ。見ろよ、噂をききつけて、街じゅうから亡者が集まってきやがらァ」
遅れてやってきた人々は、チャンスに恵まれなかった不当を訴え、運よく広場にいた果報者に平等であるよう要求した。
もちろん聞き入れられない。当たり前だろう。のこのこ今頃やってきといて、人の取り分を寄越せなんて、ムシのいい話があるもんか。
遅参者たちは納得しなかった。たまたまその場にいただけで、独り占めとは了見が狭い。そもそも取得物はオカミに届けるのが決まりだろうが。なんなら手伝ってやろうか?
また乱闘のゴングが鳴った。
騒動は勢い余って広場からあふれ、やがて関係のない屋台がとばっちりの憂き目にあった。
そのうち関係のないところで、徒党を組んだ若い衆が、手当たり次第に商店を狙いだす。
通行人が襲われ、荷車はかっ攫われ、看板や戸板まで引っ剥がされる狼藉が、エカサの街全体に広がっていった。
もはや、まぎれもない暴動だった。




