拾え!拾え!
「もってけ泥棒!」
乱闘たけなわの広場を見おろす大浴場の三階窓から、スキピオが銀貨をばら撒いた。
ストリップを見そこねて、怒鳴って暴れて斬られて血をみて、そこに銀貨が降りそそぐ。
陽光にギラギラと輝くそれが路面に音をたてたとき、群衆から最後の理性が弾けとんだ。
乱闘どころではなくなって叫ぶ。なんてこった。あの野郎、気でもふれたか!
干天の慈雨に遭った農夫よろしく諸手を天に突きあげて、降り注ぐ銀貨を我がものにすべく、絶叫しながら踊り狂う。
暴れていた群衆。
見物していた用心棒。
手枷、足枷のままの奴隷たち。
彼らを売りにきた商人まで。
誰も彼もが目の色変えて、降り注ぐ銀貨を奪いあい、ふと頭上の小男を訝しむ。見ない顔だな。いったい誰だ?誰でも構わないじゃねえか。今はただ、拾え!
「そうだ、拾え!まだまだいくぜ、拾え!」
人々はぶつかりあい小突きあい、すぐにここでもあそこでも、小競り合いが始まった。こら、押すんじゃねえ。てめえ、どさくさに紛れて蹴飛ばしたな。いい度胸だ、顔かしな。馬鹿野郎、それどころじゃねえんだよ。拾え!拾え!
「そうそう、その調子だぜ。拾え!」
拾え!
「拾え!」
拾え!拾え!
そんな狂乱の騒ぎをかいくぐり、このときを待っていた一陣の風が駆け抜ける。
山羊髭に鍋カブト。大刀をかかえて疾駆するカトーだった。
勢いにまかせて壇上に跳びあがり、バトルロイヤル開催中の両陣営をすり抜けて、震えているミトラを抱えあげる。
「ぎゃー!」
「痛て、落ち着け。ワシじゃ、ワシ」
叩くやら引っ掻くやら、精一杯の抵抗をみせていたミトラは、ようやく相手がカトーと認識しておとなしくなったが、
「この騒ぎに紛れて逃げるんじゃ」
そう言っても、ぶんむくれの顔をぷいとそむたけて、目を合わそうともしなかった。
「どしたんなら」
「ウチのことは放っとって」
「なんじゃ、拗ねとるんか」
そんなやり取りに気づいたタケチウスが、
「貴様、何をしている!」
と、必殺の一撃を振り下ろした。




