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オトコの姫とヒゲデブの騎士  作者: あしき わろし
6 奴隷市場
39/69

拾え!拾え!

「もってけ泥棒!」



 乱闘たけなわの広場を見おろす大浴場の三階窓から、スキピオが銀貨をばら撒いた。


 ストリップを見そこねて、怒鳴って暴れて斬られて血をみて、そこに銀貨が降りそそぐ。

 陽光にギラギラと輝くそれが路面に音をたてたとき、群衆から最後の理性が弾けとんだ。

 乱闘どころではなくなって叫ぶ。なんてこった。あの野郎、気でもふれたか!

 干天の慈雨に遭った農夫よろしく諸手を天に突きあげて、降り注ぐ銀貨を我がものにすべく、絶叫しながら踊り狂う。


 暴れていた群衆。

 見物していた用心棒。

 手枷、足枷のままの奴隷たち。

 彼らを売りにきた商人まで。


 誰も彼もが目の色変えて、降り注ぐ銀貨を奪いあい、ふと頭上の小男を訝しむ。見ない顔だな。いったい誰だ?誰でも構わないじゃねえか。今はただ、拾え!



「そうだ、拾え!まだまだいくぜ、拾え!」



 人々はぶつかりあい小突きあい、すぐにここでもあそこでも、小競り合いが始まった。こら、押すんじゃねえ。てめえ、どさくさに紛れて蹴飛ばしたな。いい度胸だ、顔かしな。馬鹿野郎、それどころじゃねえんだよ。拾え!拾え!



「そうそう、その調子だぜ。拾え!」



 拾え!



「拾え!」



 拾え!拾え!



 そんな狂乱の騒ぎをかいくぐり、このときを待っていた一陣の風が駆け抜ける。

 山羊髭に鍋カブト。大刀をかかえて疾駆するカトーだった。

 勢いにまかせて壇上に跳びあがり、バトルロイヤル開催中の両陣営をすり抜けて、震えているミトラを抱えあげる。



「ぎゃー!」


「痛て、落ち着け。ワシじゃ、ワシ」



 叩くやら引っ掻くやら、精一杯の抵抗をみせていたミトラは、ようやく相手がカトーと認識しておとなしくなったが、



「この騒ぎに紛れて逃げるんじゃ」



 そう言っても、ぶんむくれの顔をぷいとそむたけて、目を合わそうともしなかった。



「どしたんなら」


「ウチのことは放っとって」


「なんじゃ、拗ねとるんか」



 そんなやり取りに気づいたタケチウスが、



「貴様、何をしている!」



 と、必殺の一撃を振り下ろした。

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