修羅場のハッピーチャンス
猛り狂った群衆は壇上に殺到して、煉瓦を投げつけるわ、丸太を振り下ろすわ、もみくちゃになりながら乱戦を繰りひろげていた。
が、そこはタケチウスの侍従も訓練された軍卒。
「若をお守りしろ!」
押されながらも陣を崩さず、頭数では圧倒的な群衆の猛攻を押し返していた。
そればかりか喉元を狙ってひと突き、ふた突き、次々と血祭りにあげている。
「景気よく殺しやがるなァ。ここは連中にとって外国だろうによ」
「まー、普通に国際問題じゃの」
「ヘタすりゃ戦争だぜ。オラスマの奴らってなァ、揃いも揃って馬鹿ばっかりか」
飛び散る血飛沫、転がる死体。
そんな凄惨な光景のなか、ミトラはマントでくるんだ肩を抱え、美剣を血に染めるタケチウスの背後にうずくまっていた。
戦いはここまで五分と五分。
両陣営が得ようとする儚げな獲物を、とりあえず王子側が防衛中といった戦況である。
「タケなんとかさん、どうやらミトラを救い出す気のようじゃが、さて、まかせておいてええんかの」
「そいつは、まずいな」
スキピオは眉を寄せて、
「護りきったところで、あいつはミトラの正体を知らねェだろ。あのまんま、あいつに保護されちまったら」
「正体がバレるのう」
「のこのこ国境まで迎えにきて、勢いあまって国境こえて、そこの住民をぶっ殺す馬鹿だからな。逆上した馬鹿はおっかねェぞ」
「護りきれんかったら?」
「血ィ見た群衆ってのは、もっとおっかねェ」
カトーとスキピオの目があって、互いの意志を確認した。
スキピオが素早くあたりを見まわして、
「一瞬、待ってろ!」
と走りだす。
カトーは長刀の鞘をひっ掴み、態勢を低くしてその時に備えた。
ほどなくして広場に隣接する大浴場の三階窓に現れたスキピオが、
「野郎ども、耳の穴かっぽじって聞きやがれ!」
と、あたり一面に響きわたる大音声で、喧噪渦巻く広場の注目を集めた。今度は何モンだ、誰があらわれた、という無数の顔が見あげるところへ、
「さあ、老いも若きもお立ちあい。朝から晩まで働く毎日、身につかねェのがあぶく銭、上前はねてく人でなし、銭はてめェの財布を素通り、見るに見かねた旅のモノ好き、昨夜たんまり巻き上げたぜ詐欺、さあ、さあ、ハッピーチャンスだ野郎ども、派手に小粋にデナル銀貨の大盤振る舞いだぜ!」
一気にまくしたて、手一杯に掴みとった銀貨を、勢いよく投げ上げた。
「早いもの勝ち、もってけ泥棒!」




