砂海の美丈夫
「待て待て待てーい!」
広場に殺到した一団、その数、ざっと十人余。
揃いの甲冑、揃いの剣に、背格好から挙動まで、みごとに統一されている。
ただし真紅のマントをはためかせ、颯爽と先頭を切る美丈夫だけは、ひときわ華美な甲冑に身を包んでいた。
はやくも抜きはなたれた長剣も、まばゆく白銀に輝いて、ひと目でそれとわかる業物。
おそらく彼がリーダーだろう。
壇上はちょうど、よろず商がミトラの貫頭衣を剥ぎ取るところだったが、
「とうっ!」
と、群衆の目を奪う美丈夫がひらりと躍りでて、脱いだマントでミトラをくるんでしまった。
どうやら紳士のようではあるが、
「ちょ、ちょっと、あなたがた!」
仕込みに仕込んだ競売ショーを邪魔されて、慌てふためくよろず商を、
「エイ」
と、ひと突き。
喉元をおさえたよろず商は、そのまま壇上から転げ落ちて動かなくなった。
どうやら手のはやい御仁でもあるらしい。
群衆は逆上した。
身を怒らせ拳を振り上げ一触即発。なんだこいつ、いいところで邪魔しやがって(そこ?)そもそも誰だ?大仰な風体してやがる。誰でもいいから、そのマントを取っ払え。とにかく話はそれからだ!
美丈夫はよく通る声で、
「ええい、黙れ平民ども!我を誰と心得る」
群衆を睥睨しながら大喝した。
「寄らば目にみよ。遠くば音に聞け。我こそは砂海に勇名轟くオラスマ首長国の第八王位継承者、幼少より十数年に及ぶ大遠征で、天下にその名を馳せたタケチウス王子なるぞ!」
知るか、そんな奴!帰れ、帰れ!だいたい、なんでオラスマのボンボンがこんなところにいるんだ。ここは市民の広場だぞ。引きずりおろせ!たたんじまえ!
そう息巻く群衆に向かって、タケチウスと名乗った美丈夫は、
「貴賤を知らぬ者どもが、己の身分もわきまえず、我が此処にいる理由を訊ねおるか。さればよく聞け平民ども。麗しの我がミトラ姫を待ちきれず、みずから迎えに赴けば、国境も跨がぬ旧道にて野臥りどもに襲撃されたとの急報。すわ一大事と駆けつけたれば、そこには累々たる屍ばかり、そこに我が姫の姿はなく、哀れ下郎どもに捕らわれて、辱めを受けておるやもと馬を飛ばせば、よってたかってこの始末。おのれおのれ下賤の者共、我が妃となるべき麗しの姫に、よくも破廉恥な真似をしおったな!」
などと、なおも長広舌をかましている。
「話を総合すると」
人だかりを掻き分けながらカトーが、
「どうやらミトラの嫁ぎ先は、あの兄ちゃんだったらしいのう」
「かわいい新妻が待ちきれねェと、わざわざお出迎えかよ。素っ頓狂な野郎だな」
「オラスマ首長国いうたら砂海方面か」
「半農半牧のオアシス国家群だ。最近は交易で羽振りがいいと聞くな」
言いながらスキピオが首をすくめると、後方から投擲された鉢植えが頭上をかすめて、運の悪い野次馬の後頭部で砕け散った。
それをきっかけに、群衆が壇上に殺到する。
「やべェな。こいつは、血をみるぜ」
それが始まりだった。




