オークション開始
「なんと、この美しい子は、男の子なのです」
ひときわ大きくなったどよめきに混じって、まさか、嘘だ、という声があがった。どう見ても女の子じゃないか。驚かそうったって、そうはいくもんか。それとも、あんた、お試しにでもなったのかい?
「なにを仰いますやら。大事な商品に手を出すものですか。当方は地道に真面目にひたむきに、お客様第一をモットーにしておりますのでね。まあ少々、危なかったのは事実ですが」
群衆がどっと笑った。本当かい?それだけ綺麗な男の子を手に入れて、あんた、涎を垂らすだけで我慢できたのかい?いやいや、そもそも、本当に男の子なんだろうね?
「そこは当方も商売ですから、しかとこの目で確かめました。正真正銘、男の子でございますよ」
群衆からあがったのは、先ほどとは違う異様なざわめきだった。誰かが叫ぶ。証拠を見せてみろ!そうだ、服を脱がせ!この目でみない限り、そんなことが信じられるものか!
よろず商は、それをやんわりと受けて、
「百聞は一見にしかず。もちろん、そのつもりでございますとも。では、お集まりの皆様。これより男の子である証拠をお目にかけますが、同時に競売も始めさせていただきとうございます。時は金なりと申しましてな。只今のトークに嘘偽りなくば、どうぞ奮ってご参加を」
群衆は興奮状態に陥っていた。今度は次々と罵声が飛ぶ。御託はいいから早くひん剥け!そうだそうだ、素っ裸にしてしまえ!
蒼白になったミトラが後ずさり、よろず商が鎖を引く。
彼は群衆の興奮も計算のうちらしい。落ち着き払ってこう言った。
「ご興味をお持ちいただきまして、誠にありがとうございます。しかし当方も苦労して仕入れたものですから、八〇〇〇デナルより安くお譲りするつもりはございません。そこはひとつ、ご承知おきを」
手を頭の後ろに組んだカトーが、
「八〇〇〇デナルじゃと。ずいぶん買いたたかれたもんじゃのう」
「額面の問題じゃねェや」
スキピオはあぐらをかいて、せわしなく膝頭を指で叩いていた。
「競売に挙手される方は八〇〇〇デナルより。即決は二〇〇〇〇デナルでお譲り致します。では」
と、よろず商はミトラの貫頭衣に手をかけた。
腰紐を解いてしまえば、あとは真ん中に穴をあけた一枚のぼろ布を、頭から被っているだけである。
群衆は沸騰した。いいぞ、やれやれ!引っ剥がせ!
「畜生!もう勘弁ならねェ!」
スキピオが青筋をたてて立ち上がった。
が、同じく身を起こしたカトーが、
「待て」
「とめるんじゃねェ!いくらなんでも、あれはねェだろ!あんのクソ下種ども、ひとり残らず張り倒して……」
「違う。出入りじゃ」
カトーの視線の先を追うと、広場に武装した一団が入ってくるところだった。
「待て待て待てーい!」
一団の先頭にたつ男が、はやくも抜刀していた。




