ミトラ、陳列される
「さあ、お集まりの皆様。今日はまたとない上玉を仕入れてきましたぞ」
円形闘技場と大浴場に挟まれた広場で、そう声を張り上げているのは、カトーとスキピオの部屋を訪れ、ミトラを買い取っていったよろず商だった。
彼だけではない。広場のそこかしこに据えた臨時の壇には人々が群がり、壇上の商人による売り込みに耳を傾けていた。
壇の数、およそ二十五から三十。
それぞれが数人から十数人、多い者は二十人ばかりの《商品》を連れている。
その《商品》とは人間に他ならない。
彼らと取りまく客たち、それぞれの用心棒を勘定に入れれば、ざっと五、六百人が広場にいるのだった。
つまり、ここは奴隷市場だった。
商品としての人間は、サイズが大きい上に高値なので、店頭で並べるわけにはいかない。
そこで商人たちは日をさだめ、こうして競売会を開くのだ。
じかに貴族や富豪の邸宅を訪れる場合を除けば、これが重要な商機となる。
と同時に、品揃えを並べてみせる宣伝でもあり、商才を誇示する一種のショーともいえた。
「さあさあ、お立ち会い!」
よろず商が手を打った。
壇上には首輪と手枷をはめられた奴隷たちが並んでいた。
皆一様に沈んだ表情をして、過酷な運命にうちひしがれている。
そのなかに、粗末な貫頭衣を着せられたミトラがいた。
その憂いに沈む表情は、ひときわ人々の注目をあつめた。
それを十分に心得ているよろず商が、ミトラの顎先を掴んで顔をあげさせた。
「ご覧ください、この美貌。どうです。とっても小さな顔でしょう。それだけじゃない、すべすべの染みひとつない真っ白な肌に、ぱっちりと開いた眼。こじまりとした鼻に、ふっくらと柔らかそうな唇。長い髪ときたら青みがかって艶っつや。しかも、さらっさらですぞ」
取りまく群衆に加わらず、やや離れたところに腰をおろしていたスキピオは、
「締まりのねェ口上だな。おまけに下品で聴いちゃいらんねェや」
仏頂面をして、そう呟いた。
「細身の体は、ほどよく引き締まって、まるで弓のようにしなやか。それにこの歳で、なんと手足の長いこと。今でも女神のように美しいが、数年後にはもっと美しくなること請け合いですぞ」
群衆は一言ごとに頷いて、しきりと賛同の声をあげていた。
それが気に入らなくて、スキピオがぺっと唾を吐く。
カトーは荷物に腰かけて、表情のない顔で聴いていた。
「それに、驚いちゃいけませんよ。この女神のように美しい子は、驚くなかれ、なんと男の子なのです」
ひときわ大きく群集がどよめいた。




