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オトコの姫とヒゲデブの騎士  作者: あしき わろし
6 奴隷市場
35/69

ミトラ、陳列される

「さあ、お集まりの皆様。今日はまたとない上玉を仕入れてきましたぞ」



 円形闘技場と大浴場に挟まれた広場で、そう声を張り上げているのは、カトーとスキピオの部屋を訪れ、ミトラを買い取っていったよろず商だった。


 彼だけではない。広場のそこかしこに据えた臨時の壇には人々が群がり、壇上の商人による売り込みに耳を傾けていた。


 壇の数、およそ二十五から三十。

 それぞれが数人から十数人、多い者は二十人ばかりの《商品》を連れている。

 その《商品》とは人間に他ならない。

 彼らと取りまく客たち、それぞれの用心棒を勘定に入れれば、ざっと五、六百人が広場にいるのだった。


 つまり、ここは奴隷市場だった。


 商品としての人間は、サイズが大きい上に高値なので、店頭で並べるわけにはいかない。

 そこで商人たちは日をさだめ、こうして競売会を開くのだ。


 じかに貴族や富豪の邸宅を訪れる場合を除けば、これが重要な商機となる。

 と同時に、品揃えを並べてみせる宣伝でもあり、商才を誇示する一種のショーともいえた。



「さあさあ、お立ち会い!」



 よろず商が手を打った。

 壇上には首輪と手枷をはめられた奴隷たちが並んでいた。

 皆一様に沈んだ表情をして、過酷な運命にうちひしがれている。

 そのなかに、粗末な貫頭衣を着せられたミトラがいた。


 その憂いに沈む表情は、ひときわ人々の注目をあつめた。

 それを十分に心得ているよろず商が、ミトラの顎先を掴んで顔をあげさせた。



「ご覧ください、この美貌。どうです。とっても小さな顔でしょう。それだけじゃない、すべすべの染みひとつない真っ白な肌に、ぱっちりと開いた眼。こじまりとした鼻に、ふっくらと柔らかそうな唇。長い髪ときたら青みがかって艶っつや。しかも、さらっさらですぞ」



 取りまく群衆に加わらず、やや離れたところに腰をおろしていたスキピオは、



「締まりのねェ口上だな。おまけに下品で聴いちゃいらんねェや」



 仏頂面をして、そう呟いた。



「細身の体は、ほどよく引き締まって、まるで弓のようにしなやか。それにこの歳で、なんと手足の長いこと。今でも女神のように美しいが、数年後にはもっと美しくなること請け合いですぞ」



 群衆は一言ごとに頷いて、しきりと賛同の声をあげていた。

 それが気に入らなくて、スキピオがぺっと唾を吐く。

 カトーは荷物に腰かけて、表情のない顔で聴いていた。



「それに、驚いちゃいけませんよ。この女神のように美しい子は、驚くなかれ、なんと男の子なのです」



 ひときわ大きく群集がどよめいた。

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