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オトコの姫とヒゲデブの騎士  作者: あしき わろし
6 奴隷市場
34/69

金貨と銀貨

 ふたりは荷物を背負いこんだ。


 盗品に加え、諸々の日用雑貨を詰めた背囊もあるので、ずいぶんな量だ。

 とくにスキピオは、風呂敷包みに足がはえたような格好になった。

 さらに硬貨がぎっしり詰まった袋を、腰からぶらさげている。

 ミトラを売り払った代金に他ならない。

 生命の軽い時代でも、人間はそれなりに高価なのだった。



「それ、なんでソル金貨にせんかったんじゃ」


「オレの勝手だろ」


「かさばるじゃろ。金貨なら一五〇枚じゃけん、背嚢にも入りよるに」


「一四〇枚だよ」



 とはいえ、金貨もそれだけあると一・三キログラム近くになる。

 しかしデナル銀貨だと、一〇キログラムを軽くこえてしまう。

 蛇足ながら、この時代における貨幣の価値と質量は、次のようになる。



ソル(金貨)=二五デナル、八・九グラム

デナル(銀貨)=一六フォス、四・五グラム

フォス(青銅貨)=約一〇・七グラム 



 つまりスキピオは一五キロもの物体を、腰からぶらさげているのだった。

 重量もさることながら、かさばるうえに目立って物騒に思えるが、彼に言わせれば、



「ソル金貨と言ったって、メルエンプ王のもあるから信用ならねェんだ」



 ということらしい。


 メルエンプ王は放漫な治世と驕奢な私生活で、国家を傾けた暗君として知られている。

 その時代に鋳造されたソルの金含有率は、確かに五〇パーセントを割り込んでいるのだが、



「ここは商業都市じゃけんのう。信用にもかかわるけえ、わざわざ悪貨で騙すようなことはせんと思うで」


「用心だよ、用心」


「かさばると思うがのう」


「このくらい屁でもねェって。それにお前だって、その大刀は、かさばるだろうが」



 そう指摘する通り、カトーは風呂敷に大刀を挟み込んでいた。

 遠目には旗のついてない竿にも見える。



「これは御守りなんじゃ」


「わかってるよ。だから銀貨はオレが持ってやってるんじゃねェか」


「金貨ならワシも持てるんじゃがの」


「しつけェな。勝手にばら蒔きゃしねェって」



 どうあっても譲るつもりはないらしい。



「まあ、ええが」



 ふたりは雑踏をかき分け、歩いていった。

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