金貨と銀貨
ふたりは荷物を背負いこんだ。
盗品に加え、諸々の日用雑貨を詰めた背囊もあるので、ずいぶんな量だ。
とくにスキピオは、風呂敷包みに足がはえたような格好になった。
さらに硬貨がぎっしり詰まった袋を、腰からぶらさげている。
ミトラを売り払った代金に他ならない。
生命の軽い時代でも、人間はそれなりに高価なのだった。
「それ、なんでソル金貨にせんかったんじゃ」
「オレの勝手だろ」
「かさばるじゃろ。金貨なら一五〇枚じゃけん、背嚢にも入りよるに」
「一四〇枚だよ」
とはいえ、金貨もそれだけあると一・三キログラム近くになる。
しかしデナル銀貨だと、一〇キログラムを軽くこえてしまう。
蛇足ながら、この時代における貨幣の価値と質量は、次のようになる。
ソル(金貨)=二五デナル、八・九グラム
デナル(銀貨)=一六フォス、四・五グラム
フォス(青銅貨)=約一〇・七グラム
つまりスキピオは一五キロもの物体を、腰からぶらさげているのだった。
重量もさることながら、かさばるうえに目立って物騒に思えるが、彼に言わせれば、
「ソル金貨と言ったって、メルエンプ王のもあるから信用ならねェんだ」
ということらしい。
メルエンプ王は放漫な治世と驕奢な私生活で、国家を傾けた暗君として知られている。
その時代に鋳造されたソルの金含有率は、確かに五〇パーセントを割り込んでいるのだが、
「ここは商業都市じゃけんのう。信用にもかかわるけえ、わざわざ悪貨で騙すようなことはせんと思うで」
「用心だよ、用心」
「かさばると思うがのう」
「このくらい屁でもねェって。それにお前だって、その大刀は、かさばるだろうが」
そう指摘する通り、カトーは風呂敷に大刀を挟み込んでいた。
遠目には旗のついてない竿にも見える。
「これは御守りなんじゃ」
「わかってるよ。だから銀貨はオレが持ってやってるんじゃねェか」
「金貨ならワシも持てるんじゃがの」
「しつけェな。勝手にばら蒔きゃしねェって」
どうあっても譲るつもりはないらしい。
「まあ、ええが」
ふたりは雑踏をかき分け、歩いていった。




