スキピオ絶不調
日が昇ると、市街をつらぬく大通りはごった返した。
ありとあらゆる人種・亜人種が、大小さまざまな荷車や荷馬車を避けながら、途切れることなく行き交っている。
沿道の屋台も多彩だ。
汁麺の杯売り。
焼き蜥蜴の炭火焼き。
かち割り氷の鉢盛り。
つぎはぎの反物や古着。
もぐり診療に薬処方。
人相手相に占い師。
見せ物小屋に旅芸人。
まがい物やバッタ物を含む、あらゆる業種が軒を並べて、それぞれ大声で客を呼びとめるものだから、騒々しいことこの上ない。
だから、
「さあ、らっしゃい、らっしゃい!」
スキピオも負けじと声を張り上げた。
「損はさせない、見てって頂戴。こうは見えてもこの私、ただのぽっちゃり型じゃない。親父の従兄の又従兄、その妹の旦那から、数えて十と五代前、音に聞こえたそのお方こそ、神聖フサフサ帝国の栄えある名君、メンズカツラー三世というからやんごとない。かくいう私はその末裔、嘘偽りは血筋が許さぬ、世にも珍奇な行商人、どうぞ皆様、お見知りおきを」
石畳にゴザをひき、盗んできた剣や矛を並べ、ぽんぽんと手を打ちながら、過ぎゆく人々に歯切れのよい啖呵を浴びせる。
ちらり、ちらりと目を引きはじめ、ひとりふたりと足がとまり、
「いえいえ嘘は申しません。論より証拠がこの剣だ。見て頂りゃあ一目瞭然、この艶、輝き、目も眩む。それもそのはずこの剣はァ」
という啖呵に聞きいって、ざわつく人の輪ができたところまではよかったが、
「今を去ること五百余年、砂海に近い山奥で、かの名匠ポポンデウスが、晩年に打った円熟の一振り。握れば力が沸きあがり、振れば兜も真っ二つ。突けば……突けば……」
肝心のところで、言いよどんでしまっては元も子もない。
人々はそれぞれの用事を思い出し、そそくさと輪を離れていく。
「調子が悪そうじゃのう」
「んなこたねェよ。まあ、見てろ」
スキピオは気合いを入れなおして、
「おっと皆様、ここで帰るたァ気が早い。ひと突きすれば飛ぶ鳥も落ちる、至高の業物を拝んでいきなって。なにせ一本あれば旅は安全、二本あれば家族が安心、三本あれば子孫も繁栄、さすが名匠と名高いデデンポウスの真作だ……」
勢い取り戻そうと焦ったスキピオは、ここで決定的なポカをやらかした。
「さっきはポポンデウスって言うたばい」
野次が飛ぶ前にカトーが言った。
「ミトラなら、そう言うところじゃのう」
「うるせェな。オレだって口上をトチることくらいあらァな」
と虚勢をはったが、商機を逸したことは認めるしかなかった。
ここで粘っても、もう、あまり意味はない。
スキピオは悔しそうに舌打ちすると、のろのろと荷物をまとめ始めた。
「のう。いってみんか」
カトーは手伝いながら、
「ホルモンをつつき合った仲じゃ。行く末くらい見届けても罰はあたるまあが」
「……そだな」
スキピオは、ぽつりと言った。
ずっと気にはなっていたと、渋々ながら認めたのだった。
だが、
「くどいようだが見物するだけだぜ。かかわり合いにはならねェと決めてんだからな」
そう念を入れるのも、強情な彼は忘れなかった。




