嘘つきたちの攻防
「どうだい。売りもんになるかい」
スキピオが声をかけるまで、よろず商はミトラの寝顔から視線をはずせずにいた。
「なるもならないも……このような趣向を好まれる粋人も、ごまんとおられるでしょうに」
「とは聞くんだが、蛇の道はヘビってやつさ。あいにく、その方面にゃツテがねェんだ」
よろず商は、ごほんと咳払いをして、
「一応、あらためさせて頂きますが、よろしいか」
と言い、
「いや、興味本位ではございませんぞ。亜人種である可能性もありますのでな」
「そこは信用してくれていいぜ」
「もちろん信用しておりますとも。しかし有尾族などは尻尾を切ってしまえば、我々と変わるところはありませんのでな」
「変わらねェなら、どっちでもいいような気もするが」
「ところが有尾族ときたら、足枷をしたまま十パス(約十五メートル)も飛び跳ねるのですよ。昔、塀を越えて逃げられたときなど……」
「まあ、いいや。起こさねェように頼むぜ」
スキピオとカトーは背を向けた。
よろず商が“品質”をあらためる、衣擦れの音を聞きながら、カトーが小声で言った。
「我りゃー、あがぁなホンマっぽいウソが、よう次から次へと出よんのう。サマトノバッタ公国なんて、どこにあるんじゃ」
「しっ。サマバノトッタだよ。尻尾をだすんじゃねェぞ」
よろず商は何度も感嘆の息をついていた。
本人も意識はしていないのだろうが、心なしか呼吸まで荒い。
「ふうむ……確かに」
チェックを終えたよろず商の顔を見れば、感想は一目瞭然だった。
以降、彼の言葉と本音を併記する。
「ま、まあ、そこそこのお値打ちといえるでしょうな」
翻訳:見たことがないような上玉です。
「おそれながら初めてのお取引ですので、通常ならば日を改めてご商談を、と申し上げるところですが」
翻訳:ぜひともこの場で商談をまとめたいのです。
「今後とも懇意にさせて頂きとうございますから、今回はご期待に沿うよう努力させていただきますぞ」
翻訳:一刻もはやく、手に入れたいのです。一刻もはやく!




