あるく百貨店
よろず商は笑顔をたやさず、
「ふむ。して、お売りになりたいモノはどちらに」
「そいつさ」
燭台が眠っているミトラを照らした。
こうしていると静かなもので、胎児のようにまるくなり、すうすう寝息をたてている。
その横顔を見て、
「ふうむ……」
思わず、よろず商が唸った。
彼は読んで字のごとく、万を扱う商人である。
王家のドレスから庶民のパンツまで。
マダムの蜜蝋から娼婦の白粉まで。
ツバメの巣からイモの茎まで。
よろず商は百貨店といえた。
より具体的に言うと、行商人から仕入れた商品を、都市に行き渡らせるのが彼らの業務である。
そして都市人口の四割といわれる奴隷もまた、彼らの取扱い品目であった。
つまり、ミトラを売り払おうとしているのである。
「……起こしても?」
しばらくして、よろず商が言った。
「いや、このまま頼むわ」
「何か、いわくつきですかな」
「なに、ちょいと仕事をしくじっちまってよ」
スキピオは頭を掻いて、
「オレたちゃ南洋諸国のひとつ、サマバノトッタ公国におわします、さる貴族様のお抱えでね。名前は明かせねェが、タダ同然で巻きあげた無人島から明礬が出て、染物市場を席巻しちまった好事家の旦那と言やァ、だいたい検討つくだろう」
よろず商は考え込みながら、
「ふうむ……なかなかの羽振りのようですな」
「その旦那の側女に欠員ができてね。その前が豊満な南国美女だったから、今度は儚げで色白な北方の少女がいい、なんて言うわけさ。まあ、よくある話だよ」
と、スキピオは苦笑して肩をすくめた。
「ってなわけで、はるばる高原地方くんだりまで買いつけに来たはいいんだが、やっぱり素人のつれェとこだね。ツラだけ拝んで早々と仕入れちまったが、性別を確かめんの忘れてた」
「なんと!で、では、この子は……」
「どうせバレちまうから、ヘタに誤魔化すのはやめとくぜ。れっきとした男の子だよ」
「ううむ……なんという……」
よろず商は腕組みをして、言葉を失ってしまった。




