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オトコの姫とヒゲデブの騎士  作者: あしき わろし
5 夜更けの商談
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デタラメ仁義

「こちら、スキピオ様のお部屋で、よろしゅうございますか」



 訪ねてきた男は恭しく言った。



「この度はお声がけを頂き、誠にありがとうございます。当店はエカサの皆々様とともに歩んで三十年、お客様第一をモットーに、地道に真面目にひたむきに、誠心誠意お尽くしする優良店でございます。して、本日の御用向きは……」


「しっ」



 扉を開けたカトーは指を口にあてた。



「なるべく静かに入ってくれんかの」


「スキピオはオレだよ」



 商人風の男は周囲を見まわした。

 物腰は柔らかい。

 が、値踏みをしているのは明らかだった。


 相部屋が前提の四人部屋を、粘りに粘って三人分の宿賃で借りていた。

 壁際の二段ベッドが向かい合い、狭い通路にある円卓には燭台が灯っている。

 高級とは言い難いが、都合によって六人部屋になったり、八人部屋になったりする木賃宿にくらべれば、



(まずは、中等といったところ……)



 と、商人の笑顔に書いてあった。


 それを百も承知で、スキピオは鷹揚に振るまっていた。

 本当ならハイソなスイートで、交渉前にハッタリをきかせたいところだが、ない袖は振れない。

 それでも無理して相部屋を避けたのは、なるべく足元をみられないようにするためだった。



「こんな夜更けに来てくれてありがとうよ。よろしくな。こっちはカトー」


「まあ、ええがに頼まあや」


「クチのききかたを知らねェのは多目にみてくれ。これでも腕はたつんでね。一緒にいてもらってるんだ」



 室内だというのにカトーは鍋兜をとらず、立てかけてた大刀の傍らで腕組みをしていた。

 凄腕の用心棒……という演出を、商人はどこまで信用したのか、



「近頃は物騒ですからな。今後とも、なにとぞご贔屓に」



 と、丁寧に腰を折った。



「さすがはヤゴチエヌスさんとも昵懇の、四海楼の親分の紹介だ。話がはやいよ」



 と持ちあげたが、そう言うスキピオの行動こそ、迅速そのものだった。



『まァ、ひと晩、考えてみるさ』



 などと言ったそばから街に飛び出し、すぐにヤゴチエヌス派の顔役が、旧市街にある酒家『四海楼』にいると突きとめたのだ。

 さっそく駆けつけて、



『手前、生国は蒼き山脈仰ぎみて、滔々流れるマクティ河のほとり、シン国ノガーナでございます。稼業、縁もちまして、身の片親と発しますは……』


 渡世の仁義を切り、首尾よく息のかかったよろず商を呼びだしてもらったのだった。

 もちろん仁義の内容は、まったくのデタラメである。

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