男ツワモノ、女ヒメ
アルカデウスとホノリス。
王子ふたりの後継問題は、ヤゴナ王国を二分する対立となっていた。
酔っ払いの馭者は言う。
「そんなこんなで、この国は次期国王の座をめぐって真っ二つ。その煽りをくって、王室出入りの御用達からの居酒屋のオヤジまで、どっちかの息がかかってる有り様でね」
「多数派工作ってわけか」
「どっちの味方をするかで誰にナシを通しておくかも違うし、取り引きできる相手も違ってわけさね」
「めんどくせェな。オレたちにゃ関係ない話なんだがね」
「どうしてもってわけじゃないよ。兄さん方は外国人だからな。まあ、これは助言さね」
「あんたはどっちなんだい」
スキピオが訊くと、馭者はエヘンと咳払いをして、
「おあいにく、駅馬車の馭者は特別さね。なんたって駅馬車は、畏くもイフススメス陛下の直轄なもんでよ」
「おっと。そいつァ、お見それだったな」
「まあ最近は、うんと催促しないと給金だって貰えねえけども、それでもたまにゃあ、勅旨や勅令を運ぶことだってあんだからな。抱き込むだの何だのってのとは無縁の話よ」
「うめェことやってんなァ」
スキピオはカトーを促して席を立った。
カトーは眠り込んでいるミトラを抱え上げ、スキピオは銅貨を卓に置いた。
「まァ、ひと晩、考えてみるさ。いろいろと、ありがとうよ。少ないが、こいつで一杯やってくんな」
馭者は顔をくしゃくしゃにして、
「これは、これは。こっちこそすまなんだな」
「ワシからも、ひとつだけええかの」
ミトラを背負ったカトーが、
「なんでも訊いておくれ、でかい兄さん」
「そのホノリスたらいう殿下なんじゃが、姉か妹がおるんと違ったかの。噂ではそう聞いたんじゃが」
馭者は少し考えて、
「ご令姉さまがいらしたな。たいそう美しいという評判だったが、つい先日、隣国オラスマに嫁がれてしもうた。でかい兄さん、興味あるのかね」
「いやなに、この娘がの」
と、ミトラの寝顔を顎でさして、
「こがいな子供でも女じゃのう。噂にきく姫様をいっぺん見たいと、こん国に来る前からきつくての」
「ほう」
「見たからいうて自分が綺麗になるわけじゃないんでと、何べん説明してもわからんのじゃけ。姫様はもうおらんと知ったら、こりゃまた煩いのう」
そうボヤくカトーに馭者は、
「でかい兄さんだって子供の時分、強い兵士に憧れただろう。それと同じでないかい。女の子なら綺麗な姫様に憧れるもんさ」
そう言って片目をつぶった。
「女の子なら、ね」




