予想③-②、①落馬
宦官長ヤゴチエヌス。
そう聞いてスキピオは、
「宦官がからんでるってなァ、ちっとばかし厄介だな」
と、いやな顔をした。
宦官は男性器を切除した男性で、国王が私生活をいとなむ後宮において、あらゆる雑務をこなす官職だった。
男女が“間違い”を起こさないよう、後宮に男性は国王ひとりなのだが、女手だけでは何かと不便なので、男であって男でない人間をつくったのだ。
人権蹂躙の極みだが、その歴史は古く、宦官が巻き起こす政争の前例も、また多い。
馭者は頷いて、
「そんで、そのヤゴチエヌス様が、毎日のようにホノリス殿下の素ん晴らしいお人柄を、イフススメス陛下ご注進してるんだな。陛下もその気になりかかってる……なんて噂もある」
「なんだかんだ言って、国王の私生活をおさえてんのは強味だもんな。下々の処理から毎夜の伽まで世話してもらってるんじゃ、金ン玉を握られてるようなもんだ」
「そして結局のところ、閣僚の任命権や軍隊の統帥権は陛下ひとりがお持ちなわけでね。元老院といったって、所詮は王権を補佐する機関でしかないんだもの。だからナセルス様も気が気でないんだな」
「きな臭ェことになってんなァ、この国も」
スキピオは馭者の杯にまた酒を満たし、ついでに自分とカトーにも注ぎ足した。
「何だか、ややこしくなってきたな。ちっと図にしてくんねェか?」
「いいとも」
国王イフススメス
│││
││├─①王太子(死没)
││第一王妃
││
│├──②アルカデウス
│第二王妃 ・貴族ナセルス
│ ・元老院
│
├───③ホノリス
第三王妃 ・宦官ヤゴチエヌス
「ありがとうよ。こうしてみると、①王太子の亡き後は②アルカデウスが来んのが、自然っちゃ自然なんだな」
「そういうこと。ところが①から③ホノリス殿下の支持にまわったヤゴチエヌス様が、猛烈にプッシュして順位を逆転させつつあるんだ」
「さあ、そうなると黙っちゃいられねェのが元老院。つまり、この国の貴族たちだな」
「その通り。とくに出世頭のナセルス様にしてみりゃあ、宦官たちに宮廷を牛耳られたんじゃあ、堪ったもんじゃないもの」
「なるほどねェ。つまるところ、この国も貴族と宦官がお決まりの内紛ってわけだ。きなくせェ話だな」
馭者は乳焼酎をちびりとやって、
「まったくさね」
と、ほろ苦く笑った。




