どっちの王子しよう
「ことの始まりは十年前。文武両道、才気煥発、おまけに容姿端麗と評判だった当時の王太子殿下が、ある日突然、夭折したことに端を発するんだ」
この街……あるいは、この国の事情を語りはじめた酔っ払いの馭者は、
「そりゃあ、期待の若様だったもの。国王のイフススメス陛下はもとより、貴族から平民まで、国中が涙するって、あのことさ」
と、当時を思い出すような眼差しで言った。
「そいつは災難だったなァ」
と、スキピオが相づちをうつ。
馭者は何度も頷いてから、
「さて、そうなると困ったのがイフススメス陛下の跡取りだ。候補はふたり。第二王妃が生んだアルカデウス殿下と、第三王妃が生んだホノリス殿下。でかい声じゃ言えないが、おふたりの生まれが王太子殿下のみまかる前後だったもんだから、口さがない連中はいろいろ噂をしたもんさ」
「一服、盛ったんじゃねェかってやつか。実際のところ、どうなんだい」
「さあ、そいつはわからない。真実は闇の中ってやつさね。もっともわっちは……」
と、声をひそめて、
「名門貴族のナセルス様が臭いと睨んでるがね」
「へえ。そのナセルスって旦那は、そういうマネをやりかねないのかい」
「ナセルス様は、アルカデウス殿下の伯父上にあたるからね。元老院の首席でもある出世頭だが、アルカデウス殿下が即位しようもんなら、いよいよ摂政の座が転がり込んでくる。まあ、博打をうつ気になっても、おかしくはないやな」
「なるほど。てェことはこの勝負、伯父貴がケツモチをやってるアルカデウスと、死んだ王太子の支持勢力を引き継いだホノリスの一騎打ちってわけか」
スキピオはまた身を乗りだして、
「で、ホノリスとやらが王太子から引き継いだ支持勢力って、誰なんだい」
馭者は驚いて、スキピオの顔をまじまじと見た。
「兄さん、ずいぶん呑み込みが早いでないか」
「担ぐ御輿をなくしたら、次の御輿を探すのが、お偉い連中のパターンだからな。アルカデウスはもうナセルスって奴が担いでるから、王太子についてた連中が次に担ぐのは、どうしたってホノリスってことにならァな」
「なるほどねえ。いや、ご明察の通り。ホノリス殿下には、後宮を仕切ってる宦官長のヤゴチエヌス様がついてるんだな、これが」
「なるほど、宦官か」
スキピオは思わず唸っていた。




