人相見稼業
酔っ払いは身分をあかした。
「わっちは駅馬車の馭者さ。商売柄、人を観る癖が染みついていてるんでね。詮索が過ぎたなら勘弁しておくれよ」
この時代の駅馬車は、二〇マイルおきにある駅で馬を代えながら、街道の都市や拠点を繋ぐ官営の定期便だった。
国力の衰退によって、旧道や辺境では機能しなくなっているが、王都からエカサにいたる幹線街道では、
「まあ、どうにかやってるよ」
という言葉通り、昔のままに運行されていた。
もっとも近頃は、給料の遅配や未払いが珍しくないので、ワケありの客を乗せたり、ご禁制品を運ぶアルバイトに精を出すのが普通だった。
スキピオが一瞬、
「しめた」
という顔をみせたのも、そこに理由がある。
もともと社会的地位の高くない稼業だが、胡散臭い商売に手をつけはじめると、一層そういう目で見られるようになる。
そのかわり彼らには、取りっぱぐれのない仕事を見分けるために、身分や肩書きにとらわれずに相手をみる眼力が備わっていくのだった。
情報源として、これほど格好の相手もない。
スキピオは身を乗りだして、
「駅馬車をやってんなら渡りに船だぜ。そういう商売は耳ざといっていうからな。オレたちもこの国はひさしぶりでね。どうだい、最近の景気は」
「ほう。兄さん方、外国から来たのかね」
「まァね。長ェこと南海渡りの乾物を商ってきたんだが、またぞろ小君主どもが斬った張ったを始めやがったんで、砂海渡りに鞍替えしようと思ってよ」
「あのへんは物騒だと聞くからねえ」
「まったく、はた迷惑な連中さ。んで、この街で商売するとしたら、いったい誰に筋目を通しとけばいいんだい」
戦場荒らしを生業としてる割に、よく舌がまわる。
もっとも大っぴらにするような職業ではないので、適当に誤魔化しておくのも、必要なスキルといえなくはなかった。
ちなみにカトーはそのへん、まったく頼りにならない。
酔っ払いの馭者は、さぐるような顔つきになり、
「その前に。兄さん方、どっちの勢力につくんだい」
「どっちって?」
「なんだ、行商人という割には事情に疎いね。それで商売がやってけんのかい?」
と言う顔に嘲る色はなく、むしろ、ホッとしたような安堵の表情があった。
対立している勢力の、いずれかに肩入れしているような手合いだと、話す内容も違ってくるのだろう。
この街……あるいはこの国もまた、少々ややこしい事情をかかえているようだった。




