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オトコの姫とヒゲデブの騎士  作者: あしき わろし
4 ノンベたちの政談
24/69

陛下に乾杯

「さっきから見てたんだけども、まったく、惚れ惚れするような呑みっぷりでないかい」



 隣の椅子を引き寄せ、勝手に卓についたその男は、見たところ四十半ばから五十に届く年配だった。

 ふらつく足元、赤らんだ鼻、わけもなくにやけた口元。

 どこの酒場にも一人や二人はいる酔っ払いの典型だった。



「ま、ま、一杯」


「ありがとうよ。頂いとくぜ」



 スキピオは邪険にしなかった。


 各地を渡り歩く稼業にとって、地元でくだを巻く飲んだくれが、意外な情報源になることも少なくない。

 カトーもそのあたりを心得て、杯の乳焼酎をあけると、



「すまんのう」



 と、杯を差し出した。

 男は抱えていた瓶から酒を注いで、



「イフススメス陛下のご息災に」



 と乾杯の音頭をとった。


 アウトクラトール・エテアニマウ・イフススメス・アルサケス・コスムラード。

 ヤゴナ王国の現国王である。

 中つ州にわずか八家の王族でも、いわゆる“五つ名”は、戴冠する者にしか許されない。

 通常は家族名をとって『イフススメス(国王)陛下』と呼ばれていた。


 乾杯を君主に捧げるのは、広くみられる風習である。

 カトーとスキピオも黙って杯を掲げた。



「ときに、兄さん方。なかなかの別嬪さんを連れとるでないの」


「なァに、まだガキさ。見なよ、馬乳酒くらいで眠りこけてやがら」


「いやいや、どうして。寝顔にも、そこはかとなく気品がある。にっこり笑って、ひらひら踊れば拍手喝采、お捻りもずいぶん期待できそうだ。それに、そっちの髭の兄さんは立派な剣だし、なかなか腕も立ちそうだ……うう、むむ」



 と考え込んでから、



「わかった。お兄さん方、さては旅芸人の一座でないかい。別嬪さんの踊りでお客を集めて、髭の兄さんが兜割りでもやるのと違うかね」



 カトーは苦笑いして、



「お目が高いと言いたいが、どうも買い被りはこそばゆいのう」


「そういうこった。この髭がダンビラを抱えてんのは、たんにタッパがあるからでね。長え胴のやつが長え刃物をぶらさげてりゃ目立つだろ。そこらの半端な三下は、それだけで手が出ねェって寸法さ。おっとタネを喋っちまった。今のは聞かなかったことにしてくれよ」


「はっはっは、おもしろい兄さん方だ。まあ、そういうことにしておこうか」



 スキピオは自分たちの酒甕から乳焼酎をすくって、男の杯にそそいだ。




「実際のところは、オレたちゃ砂海渡りの茶葉を買いつけにきた行商人でね。そういうあんたは、たいした目利きとみたが、さては口入れ屋の元締めかい」


「おっと、こいつは」



 男はぷっと吹き出して、



「一本とられたでないか。なあに、わっちもこの辺の、しがない身分さ」



 大きな口をあけて笑った。

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