ボヤキ酒
「ちぇ。いい気なもんだぜ」
そう言ってスキピオは、また乳焼酎の杯を傾けた。
七輪が片づけられた卓にミトラが突っ伏して、すやすやと穏やかな寝息をたてている。
時折ムニャムニャと何やらつぶやいて、顔の向きを変えたりしているが、それでいて目を覚ますことはなかった。
店の客はおおかた捌けて、今は同じような呑んだくれを残すのみだった。
換気の悪い店内に立ち込める煙が、騒動の名残をとどめている。
長逗留を決めこむ酔客は椅子に根を張り、もう、おいそれとは動かない。
これからまだ夜の長い、どこの酒場でも見られる夜半の風景だった。
「呑気に寝やがって」
「それにしても、かわいい顔をしとるのに、勝ち気なとこあるのう。ははは」
そう笑うカトーも乳焼酎を嘗めていた。
先ほどから、かなりの量を消費しているが、従軍経験のある二人にとって、このくらいは酔ったうちに入らない。
乳焼酎のアルコール度数は七~八パーセントといったところだが、その五倍ほどもある酒の樽に、逆さにした授勲者を突っ込んで祝福するのが、所属していた部隊の伝統だった。
鍛え方が違うのだ。
「勝ち気なのはいいがよ。程度問題だぜ」
かつて三度も『酒樽落とし』の栄誉に輝いたスキピオは、浮かない顔をしていた。
「オレはなれ合わねえ、つったろ?」
「ああ、言うとった」
「あとで辛くなるからよ。それをお前、あんな馬鹿騒ぎなんか、おっ始めやがって」
「ノリノリじゃったように見えたがのう」
カトーはにやつきながら、
「それに別に一緒になって馬鹿騒ぎせえ、とは言うとらんで」
「そりゃ、お前……あんな風にされたら、つい乗っちまうだろうがよ」
スキピオはますます渋い顔をした。
「とにかくだ。お遊びはここまでにして、あとは予定通りやるぜ。これは、お前も同意したことなんだからな」
カトーは答えず、黙って杯を仰いだ。
「もう決めたことなんだ。四の五の言ったって、結局はそれしかねェんだよ。俺たちといるってことは、大手を振ってお天道様の下を歩けねェってことなんだからな」
「ほーじゃのう……」
カトーが思案顔になって、続けて何か言おうとしたとき、
「兄さん方、なかなかいい呑みっぷりでないの」
と、相席の許可もとらずに、割り込んでくる男がいた。




