ホルモンの戦い(4)
「乳焼酎を味見してみたかと」
とミトラが言いだして、カトーとスキピオは顔を見合わせた。
山中でブドー酒を飲ませたところどうなったか、まだ記憶に新しい。
カトーが諭すように、
「そりゃ、やめときんさい。酔うてしまうからの。ブドー酒であれじゃけん」
「そうだぜ。その馬乳酒あたりがちょうどいいんじゃねェか?」
ミトラは、ぷっと膨れて、
「子供扱いせんでくれんね」
と睨みつけたが、ふたりが気にする素振りもみせないので、やおら火鋏を掴みとり、
「このハチノスはもう食べ頃ばい。このギアラも、よう焼けとっと。これも、これも……」
意趣返しのつもりだろうか、網上のホルモンを、片っ端から取りはじめた。
「あっ。それはオレのだろうが!」
「ほほう。ミトラさんや、それは宣戦布告ととってええんじゃろうの」
「大人のホルモンは戦争って言うたばい」
とミトラは鼻息も荒く、
「それとも、ふたりは子供やったと?」
「おもしれェ。受けてたつぜ」
「ぷぷぷ……火挟みがウチの手にあるのを忘れとっと?」
「大人を舐めんなよ。こいつで取りにいきゃいいんだよ」
スキピオは岩塩を削るナイフをひっ掴むと、ホルモンを次々とぶっ刺して、自分の小皿に放り込んだ。
「あっ!ルール違反ばい」
「お前がそれを言うか」
「不都合がありゃあ適当に解釈を変えるのが大人のルールじゃ。ほれ、このセンマイもええ焼け具合じゃのう」
カトーはなんと、肉の端をつまんで小皿に投げ入れていた。
熱さを感じる前に手を引っ込める荒技だ。
「こなくそ、負けんばい!」
ミトラが立ちあがって火鋏を振りかざし、スキピオがムキになって対抗する。
乱暴に網をつつきあうので、ギアラが跳ねる、ミノが飛ぶ。
カトーがそれを口でダイレクトキャッチすると、真似ようとしたミトラが、
「あひっ、あちち」
涙目で馬乳酒を流し込む隙に、スキピオがそのラウンドを制した。
次のラウンドが始まるや、見境のなくなったミトラが生焼けをすべて確保して、
「まだじゃ」
ひょいと手を伸ばしたカトーがそれを網に投げ返す。
ギャアギャア罵り合いながら延々と繰り返すうちに、大皿は二枚、三枚と重ねられていった。
「もう、食べれんばい……」
酒場の隅で繰り広げられた『ホルモンの戦い』は、馬乳酒に目を回したミトラがひっくり返って、ようやくその終焉をみたのであった。




