ホルモンの戦い(2)
運ばれてきた大皿には、様々な形状の薄切り肉が並べられていた。
白っぽいもの、赤みがかったもの、格子状の筋があるもの、包丁で切れ込みが入れてあるもの。
「これは?」
スキピオがひとつひとつ指差して、
「テッチャン、コテッチャン、ミノ、ハチノス、センマイ、ギアラ……」
「わかるように教えてくれんね」
「全部ひっくるめてウシケラのホルモン焼きさ。ウシケラいうのはなァ、まあ、でかいウシみてェなもんだ」
「でかいウシ……もしかしてウシケラトプスばいう卵生の大型草食獣のこつばいか」
「そう、たぶん、それよ。ええとな、つまり、いくつもある胃袋やら、腸やら、その他もろもろの内臓を、炭火で焼いて食うわけだな」
「なるほど。草食獣には胃袋がいくつも持っとう種ばおるって読んだことあるばい。で、どれが第一胃ね?」
「それは、たしか……」
スキピオにかわり、ホルモンを網に乗せていたカトーが、
「ミノじゃ。ハチノス、センマイ、ギアラの順」
と、火鋏で指し示した。
脂分の多いホルモンは、網に乗せるとジュッと煙をあげる。
時折、染み出た油がしたたり落ちて、ぱっと炎を立ちあげミトラを驚かせた。
カトーが慌てずに肉を返しつつ、
「燃えうつったりせんけえ、安心しんさいや」
「でも、怖か」
「本物のウシケラの怖さは、こんなもんと違うど」
「産卵期の野生種は気が荒いって読んだばい」
「そりゃー、卵を抱えとる群れに近づいたら地獄よの。まー、これは家畜種じゃが」
と、言いながら火鋏で網に線を引き、
「ほれ、網のこっからここまでミトラの領土にしちゃるけえ、焼けたら小皿にとりんさい」
「領土?」
「ほーじゃ。大人のホルモン焼きは戦争じゃけえ、安全地帯をつくっとかんとミトラが食えんようになる。ほんじゃけ、こっからここまではお互い不可侵条約よ。スキピオ、それでええな?」
「おう」
「そのかわり領土の肉は自分でとる。小皿には先にタレを入れといて、肉を浸けてから葉っぱに乗せるんじゃ。味が足らんかったらそこの岩塩をナイフで削って、自分でええがに調整しんさいや」
卓の端に岩のような物体が置かれており、傍らにナイフがあった。
スキピオがナイフで二、三度突いて、こぼれ落ちた粒をミトラの手のひらに乗せた。
「舐めてみな」
「しょ、しょっばっ……」
ミトラはしばらく悶えてから、
「なんで、こんな意地悪すっとね!」
「これが肉によく合うんだよ。まあ、ほとんどの料理に入ってるんだが、自分で振りかけるのが庶民流ってやつさ」
そう言ってミトラの小皿に何やら液体を注いでから、
「特製の浸けダレだよ。ホルモンの味は肉とこいつで決まるんだ」
「材料は醤油に味醂に砂糖に胡麻油、生姜にニンニクに玉葱に、隠し味に魚醤と摺り下ろした林檎といったところかの。そこの小壺に入っとるけえ、小皿になくなったら自分で継ぎ足すんよ」
「この店のタレはまずまずだぜ。まあ、だからここに泊まることにしたんだがな」
そう言いながら、スキピオは深皿の葉を取り分けてやった。
「さあ、そろそろいいだろう。くれぐれも自分の領土からはみ出るんじゃねェぜ」




