ホルモンの戦い(1)
多くの宿屋がそうであるように、カトーとスキピオが部屋をとった旅籠も、一階は酒場を兼ねた食堂になっていた。
そのへんは、どの町でも同じようなものだ。
ただし卓の中央に七輪が置かれ、木炭が赤々と熱せられている点が、他の地域と違う。
これがトゥスキの名物料理には欠かせない。
もっとも、七輪に置かれた網には、まだ何も乗せられていなかった。
かわりに三人の前には小皿が置かれている。
「これ、なんね?」
ミトラは小皿にある薄く切られた肉片を、しげしげと見ながら訊いた。
「ズラトロクいうてな、まあ野生のヤギみたいなもんじゃ。それの、すね肉の香味漬けよ」
「すね肉?」
「ここじゃ、ここ」
カトーはズボンの裾をまくって、
「金持ちにカルビやハラミを売ったら、足や内臓が残るじゃろ。それを安く仕入れて、ワシらみたぁな庶民に食わせるんじゃ。ただ、すね肉は堅くて噛みきれんけえ、塩を擦り込んで香辛料と漬け込むんよ。三日ほど漬けたら柔らかくなるらしいで」
「ふうん」
「まー、料理の準備ができるまで、これでも食うて待っとけいうことじゃ」
「前菜ってこつばいね」
ミトラはおそるおそる、ズラトロクのすね肉を口先にもっていった。
もぐもぐと噛んでみて、
「うまか!」
と、驚きと喜びの入り混じった表情をした。
「酸味があってさっぱりしとるばってん、噛むとじわじわっと肉の旨味が追いかけてきて、しかも辛味が後を引くばい」
「あんまり食うと腹が張って、メインが入らんようになるで。まあ、こいつは別で、なんぼでも入るがの」
「ほっとけ」
あてこすられたスキピオが憮然としているうちに、大皿と、菜っ葉を盛った深皿が運ばれてきた。




