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オトコの姫とヒゲデブの騎士  作者: あしき わろし
3 ホルモンの戦い
18/69

ヒゲデブ、混浴未遂

 入浴の歴史は古い。


 ヤゴナ王国の成立時においても、すでに前王朝が運営していた公衆浴場を継承している。

 民衆に浴場を提供することは、為政者にとって福祉政策であり、伝染病の予防でもあった。

 ことに多様な人種・亜人種が往行する商業都市において、衛生管理は重要だった。

 エカサにも初期の植民時代から、千人収容クラスの大浴場が建造されていた。



「大浴場にあるのは風呂じゃ。庶民はのう、毎日ああいうでかい風呂に入りにいくんよ」


「なして家で入らんと?」



 そこで黙々と歩いていたスキピオが、とうとう我慢しきれなくなり、



「庶民が家に水道を引けるわけねえだろ?」



 と、口を挟んできた。



「家を持てなくて集合住居で暮らしてるやつも多いしよ。てめェん家で風呂に浸かるなんざ、限られた貴族か、富豪にしか許されねえ贅沢なんだよ」


「ふうん」



 貧富の概念から解説しなければならないかと思いきや、あっさり納得したミトラは、その場に佇んだまま浴場を眺めていた。


 カトーは声を低くして、



「我りゃー、馴れ合いはせんのと違たかのう」


「うるせェな。べつに馴れ合いじゃねェよ。ただ、あんまり浮き世離れしたことを、抜かしやがるもんでよ」


「まあ、王族じゃけんのう。浮き世離れは仕方なかろ」



 そのときミトラが振り向いて、



「ねえ。大浴場なら今日もやっとうと?」


「なんじゃ。いきたいんか」


「大きなお風呂に入ってみたか」



 などと言いだした。



「別にいいけどよ。オレたちと一緒に入ることになるが、それでもいいか?」


「え」


「浴場ってのは男女混浴だからな。薄暗くて、あんまりよくは見えねえだろうが、それでも素っ裸の男と女が、同じ場所にいることに違えはねェよ」



 スキピオは薄く笑って、



「オレたちゃ別にいいんだけどな。なにしろ変態だからよ」


「……」



 ミトラは黙り込んだ。

 好奇心を警戒の色に変えて、カトーとスキピオを交互に見ながら後ずさる。


 やむなくカトーが助け船を出して、



「あとで旅籠に泊まるけえ、そこの風呂を使ったらええじゃろ。男女共用じゃが、ワシらが見張って誰もこんようにしちゃるけん、ひとりでのんびり入りんさいや」



 ミトラは疑わしそうに、しばらく考えこんでから、



「覗かん?」



 そう何度も念を押して、どうにかそれで了承したのだった。

 カトーは旅籠にむかって歩きながら、



「のう、こん国の浴場は、もう男女別になっとろうが。いつの話をしよんなら」


「じゃあよ。ミトラはどっちに入りゃいいんだよ」


「あ……ほうじゃの」



 カトーはポンと手を打った。



「やっぱりあれじゃ、我りゃー、優しいとこあるのう」



 スキピオは舌打ちをして、



「そんなんじゃねェよ」



 そう言い捨てると、すたすたと歩きだした。

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