“モンスター”と“レジェンド”
旧市街を抜けた広場の向こうに、三層構造の円形競技場がそびえている。
「いってみたか」
無邪気にそんなことを言うミトラだったが、
「今日は何もやりよらんで。大概は告知があって、三日間とか四日間、開催されるんじゃ」
「えー。今はやっとらんとかあ……」
「ほれ、あそこに広告が立っとんで」
カトーが指さす先には、朱書きの告知文があった。
「なになに……せ、せ、せいき、の……け……」
「世紀の決戦」
たどたどしいカトーにかわってミトラが、
「沿海州のオーディエンスを“恐怖のどん底”に叩き込み、暴虐の限りを尽くした“モンスター”、半獣半人の怪物クレタウロスの双角を、一命と引きかえに叩き折った鉄腕ガイウス、いよいよ今般、エカサにきたる。伝説の死闘を制した“レジェンド”に立ち向かうエカサ戦士の明日はどっちだ。チケット残り僅か。追加公演はありません。この一戦、女房を質に入れても見にいかなあきまへんで」
声にだして読んでから首をかしげた。
「なんか、いろいろ混ざって、しかも矛盾しとるばい……なんで一命と引きかえにしたレジェンドがエカサに来れっとか」
「まー、そんなもんじゃ。客を呼べれば、何でもええんよ」
「ガイウスってほんまにおると?」
「おった。まだ生きとるか知らんが、まー、実績は大体そこにある通りよの」
「強か?」
「そりゃー強いで。クレタウロスのツノを折ったっちゅーんはホンマの話じゃ。けどのう、エサカに来るんは本物じゃないと思うで。生きとっても、もう引退しとるじゃろ」
「そしたら、これはニセモノばい」
カトーは山羊髭をさすりながら、
「言うたじゃろ。客さえ集めたら、それでええんよ。それに最初は偽物でも、いい試合をして有名になった奴がようけおるんで」
「ふうん」
そう頷いて目を転じると、闘技場と広場を挟むようにして、負けず劣らずの巨大建造物がそびえていた。
高さこそ闘技場に譲るが、横幅は闘技場に匹敵している。
閑散としている競技場と違い、こちらには多くの市民が出入りしていた。
「あれはなんね?」
「ありゃあ大浴場じゃの。大なり小なり、たいていの街にはあるで」
「大浴場?あれが大浴場?」
またしても知識があったようで、ミトラは鼻息を荒くしたが、
「大浴場では何ばすっと?」
どうやら、建造物としての『大浴場』を知っていただけだった。




