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オトコの姫とヒゲデブの騎士  作者: あしき わろし
3 ホルモンの戦い
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魅惑の旧市街観光

「こん街の名前はなんていうと?」



 噛み切れないヤマギンチャクに苦労しながらミトラが訊いた。


 ヤマギンチャクは岩陰に固着して生活している無脊椎動物で、円筒形をした体の上部に口があり、その周囲に並ぶ触手で獲物を補食する。

 食味に乏しく、もっぱら食感をたのしむものとされるが、炙ると独特の香味がでるので、屋台では珍味としてポピュラーな食材だった。

 ちなみに本作には登場しないが、海に生息するものをイソギンチャクという。


 串焼きの屋台に小銭を払ったカトーは、



「ここは、エカサいうんよ」


「へえ、ここがエカサ」



 ミトラは、あらためて周囲を見まわした。



「そもそもは八百年ほど前にラムカナ人が入植した植民都市ばいね。山脈南路のオカ=オサと砂海交易の覇権をめぐってしのぎを削り、最盛期にはエカサ商人とオカ=オサ商人が互いを追い落とそうと、激しい抗争を繰り広げたばい」


「詳しいのう」


「そいが世にいうエカ・オカ紛争ばいね」


「どこで聞いてきたんじゃ」


「風土地理志に書いとっと」



 と言いながらも、そわそわと好奇心いっぱいの視線を、興味のおもむくまま周囲におくって、



「あ。あれ、もしかして第三次紛争で壊された城壁の跡やなかか」


「あんまりキョロキョロせんほうがええで。お登りさんじゃ思われると、悪い奴らが寄ってきよるけえ」


「カトーとスキピオは、こういう場所にも慣れとっとやろ?」


「まーの」



 カトーは鷹揚に答えたが、スキピオは先ほどから、黙りこくったまま歩いている。

 街にはいる直前、



「わかってるとは思うが、くれぐれも自分が王族だってこたァ、口を滑らすんじゃねェぜ」



 と釘をさし、



「安全なところまでは送ってやると言ったが、てめェで身分をバラされたんじゃ、そいつも保証の限りじゃねェからな」


「ええとよ。ヤゴチエヌスのところまで送ってくれれば、あとはヤゴチエヌスが何とかしようもん」


「そのヤゴナントカが何者か知らねェがよ、身の程をわきまえとけって言ってんだよ」



 と言ったきり、イーと口を広げるミトラを無視していた。



「ふん。意地悪ばっか言うて」


「まー、ワシらもこのへんは地元というわけじゃないんでの。なるべく大人しゅう頼まあや」


「わかっとるばい」



 と、ミトラは歩きだしたものの、すぐにまた目が遊んでしまう。



「あれはなんね?」



 旧市街を抜けた先の広場に、巨大な建造物がたたずんでいた。


 幅は百三十五パス(約二百メートル)、高さも三十四パス(約五十メートル)ほどあり、三層に重なる列柱が緩くカーブを描いた建物の周囲をめぐっている。

 同じく多層構造ながら、殺風景な住居がひしめいている旧市街とは、別世界といえる偉容だった。



「あれは円形競技場じゃ。大きな街にはたいがいあるがの」


「え?あれが競技場?」


「剣闘士が試合をするところよの。他にも大勢で鞠を蹴ったり、演劇をしたり、みんなで歌ったり、罪人を処刑したりするんで。ほうか、ミトラは結婚しとらんけえ、王都の競技場にも、いったことがないんじゃの」



 庶民はさておき、王族・貴族の未婚女性が競技場の観覧席につくことはなかった。

 当主としては、政略婚の手駒でしかない彼女たちに、隣席の貴公子と勝手にロマンスなどはぐくまれては困るのだ。

 もっともワガママを押し通したり、変装して忍びこんだりした挙句、駆け落ち沙汰をおこして当主の渋面をつくることも珍しくはなかったのだが……。


 さすがにそこは王族。

 そういうことはなかっったらしい。



「あれが円形競技場……」



 しばらく眺めていたミトラは振り向くと、



「いってみたか!」



 好奇心に目を輝かせ、そんなことを言いだした。

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