サラダボウルの街
「賑やかいなところばいねえ」
ミトラは物珍しそうに、あたりを見回した。
旧街道を一日半。
歩きなれないミトラを、励ましたり背負ったりしながらこなすと、やがて大きな街に出た。
王都サンマルノとともに、王国の二大都市とならび称される、商業都市エカサである。
エカサの町並みは古い。
膨張する市街が外壁を呑み込むたびに、その外側に新たな外壁が築かれたらしく、市街を幾重にも囲むその遺構が、街のところどころに残っていた。
なかでも、もっとも古い旧市街に呑み込まれた外壁は、撤去を待たず突き崩されて、修繕と増築にリサイクルされ、迷路のような街並みにひと役買っている。
その市街をつらぬく大通りに入って、
「うをっ!?」
ミトラは息をのんだ。
そこには大小、形、色とりどりの人類・亜人類が行き交って、見たこともない風景となっていた。
角が二本あるもの。
長い尾を振るもの。
全身毛むくじゃら。
水掻きをもつもの。
背に翼を折るもの。
額に眼がぱちくり。
手を前に恨めしや。
などなど……。
「調子にのったらいけんど」
「?」
「作者に言うたんじゃ」
悪ふざけはさておき、それら様々な人々が牛馬や羊、山羊、駱駝、はては駝鳥や大蜥蜴といったものたちに荷を曳かせ、車輪をぶつけ合いながら闊歩している。
まさに人種のサラダボウル。
ミトラが感嘆の吐息をついた。
「すごか……」
「あまりジロジロ見よったらいけんで。気の短い奴もおるけえの」
「こん街は異人さんが多かとね」
「まー、言うても二割ぐらいじゃ。連中は用事があって出歩いとるけえ、多く見えるんよ」
「二割?そんなもん?」
「ここは商業の街なんじゃ。西は沿海州や平原の国々から、南は熱帯の密林、北は高原の遊牧地帯、東は山岳地方や、その向こうの砂海から行商人がきて、持ちよったもんを取引しよるけえ、まー、いろんな奴がおるんよ」
「それにしても、ばり混みよっとねえ」
確かに、そこは人々であふれていた。
おまけに側道には途切れることなく屋台が並び、辻々では旅籠の客引きやら口入れ屋の募集やら、気のはやい娼婦が袖を引くやら。あげく屋台の隙間にこっそり賭場まで開帳の始末で、初めて出てきたオノボリさんなど、まともに歩くのも容易なことではない。
そこへいくとカトーは慣れたもので、
「はぐれんように、ついてきんさいや」
と、お婆さんの巾着を引ったくった掏摸を蹴飛ばしながら、
「迷子になったら探すのにひと苦労じゃ……って、言うとるそばから……おーい」
好奇心のおもむくまま、屋台のひとつに捕まったミトラは、まんまとヤマギンチャクの串焼きを握らされて、
「?」
頭上に疑問符を点灯させていた。




