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オトコの姫とヒゲデブの騎士  作者: あしき わろし
2 闇夜の宴
14/69

敵は官軍

「くそっ。ブドー酒をみんな呑んじまいやがって」



 スキピオは毒づいたが、ミトラは意に介さない。



「まーだ、そげんケチくさかこと言いよっとか」


「ケチってんじゃねェや。あのな、水ってのは腐りやすいんだよ。だから旅にでる時はブドー酒やムギ酒を持ってくんだ。それをだな……」


「しぇからしか。いい大人が尻の穴のこんまかこと言うて、女の子にモテんようなっても、ウチは知らんばいね」


「なにを、この、て……てめェが言うか?」


「尻の穴とは、あまり上品じゃないのう」


「え?」



 ミトラは目を真ん丸にして、



「ウチ、いま、お尻って言いよっと?」


「尻の穴いうたで」


「え……あ、あな……?」



 耳や首筋はおろか、顔を覆った両手の甲まで真っ赤にしたミトラは、次の瞬間には吹き出して、



「ひゃはははは、だ、だれがお尻の穴ば言いよっと?ウチは言わんよ?お行儀の悪か、だって、お尻のって、ひひ、ひゃはははは……」



 ひとりでウケまくっている。



「ひゃひゃ、ス、スキピオさん、それはなか。お、お尻の穴はなかよ、ひひひ」


「なんでオレが言ったことになってんだよ」



 そう言うと、スキピオはごろりとなって、背を向けてしまった。



「先に寝るぜ。カトー、ウィスプを逃がさねェでくれよ」


「ありゃ、拗ねてしもうたばい」



 そう言うミトラも、疲れたのか酔いつぶれたのか、やがて、その場で眠り込んでしまった。



「やれやれ、じゃな」



 カトーは座ったまま、寝入ったミトラを抱えていた。



「敷物かなにか、一緒にパクってくるんじゃったのう。朝方は冷えよるけえ、風邪ひかんとええが」



 そうつぶやくと、横になったまま背を向けているスキピオが、



「馴れ合いはやめとけよ。あとでツレェぞ」



 と、低い声で言った。



「わかっとるんじゃがのう。性分なんじゃ」


「オレが余計なことを思い出さなきゃ、よかったのかもしんねェけどな」


「ほんなら、ワシも思い出したことを、ひとつ言うとこうかいの」



 カトーはミトラの寝顔を覗き込んだ。

 すうすうと寝息をたてて、目を覚ます心配はなさそうだ。

 それを確認してから、



「丘の上で見とったときから、何となく思うとったんじゃが。ミトラを襲っとった連中な、麓から攻めとったほうの」


「おう」


「ありゃ、この国の正規軍じゃ」


「なにィ?」



 スキピオが跳ね起きた。



「そんな馬鹿な話があるか。なんで正規軍が、てめェんとこの王族を殺そうとするんだよ」


「そのへんはわからんがの。小汚いナリで擬装しとったが、剣槍がまるっと官製じゃ」


「武器庫にでも押し入って、かっぱらったんじゃねェのか」


「としても剣術、槍術が揃いすぎとる。カシゲン流を軍隊風に解釈した一派じゃろ。こまい技術は省略しとるみたぁながの」


「そりゃあ、カシゲン流は有名だしよ」


「全員が同じ流派の野臥せりなんぞが、あると思うか」


「……」


「さっき見た敬礼が決定打よの。拳を左胸にあてよったじゃろ。あがぁな敬礼はヤゴナの正規軍だけじゃ」



 カトーは訥々と語っていた。



「仕損じたけえ、連中、また殺りにきよるで。たいぎじゃのう」

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