支配者の血脈
「そこらの成金がカネで購えるような、そういうブツじゃねェんだよ、あれは」
いつになく真剣な表情でスキピオは言った。
「ほんなら、どがいなブツなんじゃ」
「口髭に百合の意匠……間違いねェ、諸国の家紋でも最高位のひとつだぜ」
「ありゃあ。ずいぶん、ええとこの子じゃね」
「どころじゃねェよ。よく考えたら、あいつが喋ってんのはタカハ古王朝の宮廷言語だ」
葛籠の中身をひと目で高級品と見抜いたスキピオも、さすがに想像がおよばなかったのだろう。
自分の迂闊さに顔をしかめて、
「今になって思い出すたァ、どうにも焼きがまわったぜ。オレとしたことが、よりにもよって王族を拾っちまうとはな」
「王族……ほんまか」
王族といえば、当然だが諸国の君主と、その家族たちである。
貴族に名門は数あれど、戴冠を許される血脈は国家にただ一系。
すなわち、幾千万の人々が住む広大な中つ洲に、わずか八家を数えるのみ。
いわば、この世を支配する家族群といえた。
「そういや、タカハからこのヤゴナ王国に嫁いできた王妃がいたぜ。ええと、第二王妃……いや、第三だっけな。確か王子をひとり産んでたはずだ。王子の名前はなんつったっけ……」
「ミトラじゃないんか」
「そんな女性名じゃねェ……くそっ、思い出せねェ」
「名前はともかく、タカハ古王朝の血を引いとって、こんヤゴナ王国の王子(?)でもあるミトラが、なんであがいな格好で、こげな山ん中で殺されかけとったんじゃろうのう」
「知るかよ。とにかくオレぁ、王族と関わりあいになるのはゴメンだぜ」
「そりゃワシもじゃ。お互い脛に傷を持つ身じゃけんの」
声をひそめて話し込むふたりに、
「なんの話しとっと?」
と、すっかりシャモキジを平らげたミトラが、先ほどとはうって変わった上機嫌で、
「ウチも入れて!」
「おっと」
カトーが支えてやらなければ、ダイブした勢いそのまま、派手に倒れこんでいただろう。
「あはははは、なんか楽しくなってきたばい」
「あっ!こいつ、ブドー酒を呑み干しやがった!」
スキピオが拾いあげた皮袋は、中身を失い、だらりとぶらさがっていた。
「ちくしょう、まだ半分は残ってたはずなのに!ガキのくせに酒癖の悪ィやつだ」
「大人がケチくさかこと、言いよったらいかんばい」
カトーにもたれかかったまま、ミトラはにへらと笑った。




