代償と信愛
4月26日午後10時30分 護送船内リカバリールーム
目を覚ますと狭いところに閉じ込められていて、ガラスかなんかが目の前にあって向こうは見えるけれど、見える景色に覚えがない。ガラスのところを叩いているとキーの声が聞こえてきた。
『目を覚ましましたか。今は、26日PM10:30です。2日あまり眠っていたんですよ。痛みなどはまだありますか。』
「それより先輩はどうなった。」
焦りながら聞く。
『紅なら、取り込まれました。今、静矢が闘おうとしています。そして、蹴斗達5人で弓射三神、あのT級オープを足止めする予定です。それより、痛みなどはありますか。』
包まれていく先輩が頭によぎる。
「大丈夫、問題ない。先輩を助けに行く。」
ドアに向かって歩き出す。肩などどこにも異常はなさそうだ。ラウンジに出ると荷物がいろいろ増えていた。
壁に魔方陣が描かれた黒い布が張ってあったり、某サッカー選手のポスター、ティーセットと、混沌としているが、人が居る感が出てきていた。中央ディスプレイの下にあるボックスを開いて、蹴斗と同じタイプのデバイスから時計型の物を装備する。
『何をしているのですか。』
「デバイスを2つ同時に使えば強くなれるんだろ。いくぞ。」
第三層に到着して、スタイルを替える。これといって変化がなかった。リアライズとも言ってみたが何も起こらなかった。やはり、夢は夢だったか。仕方が無いのでそのまま向かうことにした。
『何故、2つのデバイスを使うことを考えたのですか。』
キーに聞かれたので、回復する時に見ていた夢で言われたと話し、さらに、思えば思うほど強化されること、死に掛けたらまた会えることも伝えた。
『不思議な話ですね。後ほど考える必要がありそうです。それより、貴方がリカバリールームで回復している時に、他の皆さんにマヤが伝えたことを貴方に見せます。ここでは危険なので、一度戻りましょう。5分もかかりませんよ。』
映像を見ていろいろ分かったことがあった。新しく増えたメンバーの1人が恵美で、顔は見たことがある面子が居たこと、紅先輩がまずい状態あることだった。
異界での命の危機は2種類で1つは、敵からの攻撃による精神的ダメージによるショック死。あの矢の痛みも、実際は体に何のダメージも無く、脳がこれほどのダメージを受けたと錯覚させているらしい。二日であの怪我がここまで完治するとは思って無かった。肉体にダメージは全くありませんというのは信じられなかったが、もう動けるはずが無い状態で動けたりしたのはそのおかげだといわれしぶしぶ納得した。
そして、2つ目は夢や希望を壊されること。これは異界のモンスターに取り込まれたり、デバイスの破壊・スタイル使用時の敗北で起こるそうだ。現に俺はGunnerが使えなくなっている。新スタイルのせいだとばかり思っていたけど違ったようだ。スタイルは全て使用できなくなった時、モンスターの方は完全に成り代わられた時に精神が死ぬそうだ。紅先輩はまだ抗っているそうでまだ少し時間があるらしいが、進行しだいでは助かっても元になった夢が無かったことになる、または殺すしかないらしい。
『デバイスを2つ使用すると、貴方はスタイルを1つ失うごとに夢を1つ無くしていきます。夢は人によりますが2つから3つ持っているそうですが、強力な1つの夢でさえ1回の敗北で駄目になるのですよ。危険です。』
負けなければいい。少なくとも負けそうになったら逃げれば良い。前回は間に合わなかったみたいだけど、失敗しなければそれで良い。先輩の命を天秤にかけるなら、自分の命では足りないくらいだ。
「………先輩を向こう側にした責任がある。命をかければ救えるのかもしれない、それなら俺は命を懸けるよ。それ位の恩はあるから。」
『………分かりました。ただ約束してください。私の判断で強制転送を行ってもも良いこと。動く時は事前に言うこと。連絡が取れなくなったら、すぐ戻ること。この3つは守ってください。』
面前のマップ上に映るKeyというアイコンに向かってうなずく。
『キーの権限により、ユーザー神郷創志のDシステムを稼動します。…Rシステムとの併用も許可。正常に機能します。スタイルを替えてみて下さい。』
「Style change Sniper」
淡い光が自分を包んだ後、自分とあまり大きさの変わらない銃が出てきた。銃は思ったよりも軽く振り回すことも出来る。これが新しい力なのか。
『すみません。チェンジの後にスタイル名を述べて、モードと言います。そのあと、さらに貴方がどうなりたいかを単語で言ってください。そうすれば、さらに強化されます。また、モードと述べなくても武器や能力に貴方の考えが出ます。例えば、今まではこちら側のシステムが選んでいましたが、これからは、貴方がイメージした銃や刀が出てきます。』
「……Style change Samurai CODE assassin」
恥かしさを打ち消すように少し大きい声で言うと、黒のコートがより暗く、長くなった。フードも鼻先位まで覆っているが、前がはっきりと面前のディスプレイに見え問題ない。針や苦無なども取り出せる。まるで忍者みたいだが、腰の2本の刀で侍だと分かる。切れる範囲、速さともにあがっている。これなら、あの時のあいつにも勝てそうだ。先輩を助けに行こう。
『あの、こちらで認識できません。そこにいますか。』
何を言っているんだ。ここに居るとキーに言うと、向こうで姿が認識できていないことが分かった。
このままでは転送が出来ないらしい。キーにこのままで良くないかと提案したが却下された。
『転送速度が落ち、索敵も5%程効率が落ちますが、私が貴方の元で作業します。』
と言って、デバイスにキーが入ることになった。中央のディスプレイ前に携帯をセットし、1分ほど待つと作業は完了したようだ。画面のKeyのアイコンに色が付いた。
『準備完了しました。』
「それじゃあ、先輩を助けに行こう。キー、ナビをよろしく。」
4月26日午後11時00分 異界3層
ナビに従って走っていく、阿修羅の劣化版みたいなのがちらほらいたが、目の前を突っ切っても何の反応もなかった。気付いていないようだ。走りつつ画面の隅に蹴斗達が戦っているのが見える。指示だししているやつが優秀そうでこっちが押している。魔法を使っているやつもいるみたいだ。別のアイコンではキャプテンが紅先輩の攻撃をひたすらガードしている。何か策があるのだろうか。
「キー、キャプテンには何か策があるの。」
『守さんが1対1での戦いを望んだためと聞いています。手嶋さんは全てを耐え切り戦意を挫いて、望みを叶えさせないつもりです。』
何かがおかしい。先輩はキャプテンが好きで、キャプテンに告白されたいといっていた。そんな先輩が戦うことを望むなんて考えにくい。歪んでいたとしても何かきっかけぐらいあるはず、考えろ。
『もうすぐ着きます。』
1対1にこだわっている。戦うということはどこか気に入らない。倒して手に入れたい。分からない。
「キー、待ってくれ。先輩が戦っている様子が見たい。」
そう言って近くの塀、屋根に乗って見える所で戦いを見る。
音はデバイス頼りなので、ワンテンポ遅れて聞こえるが気にしない。状況はキャプテンが守っているだけなので押されている。紅先輩は何故攻めてこないとか挑発を繰り返しているが、正面だけに単調に攻撃を繰り返している。先輩が炎を出すと、キャプテンが光の壁のようなもので霧散させる。両者から勝つきが感じられない。おそらく先輩はキャプテンに負ける気だ。
「キー、キャプテンに伝えて欲しいことがある。死んだ振りしとけって。吹っ飛ばした後に」
屋根を駆け下り飛ぶ。また別の屋根に飛び乗り翔ける。
「Style change Striker CODE sky」
最後の屋根を蹴り、飛び上がってキャプテンを蹴りとばす。そのままキャプテンに向かって走りさらに先に蹴り転がす。
「Style change Knight CODE darkblue キャプテンすみません。先輩助けるために黙って協力してください。」
「ぐっ、誰だ。お前は。」肩を抑えながらこっちを睨みつけるキャプテンを見てやりすぎたと思ってしまった。
「創志です。急を要したのですみません。紅先輩はあなたに負けることを望んでいます。それを叶えさせないために協力してください。」
「最後の望みだぞ。叶えさせてやっていいじゃないか。」キャプテンが我を忘れて腕を掴んできた。
「俺は先輩を助けるんです。何を言われたかは知りませんが、先輩はまだ助かりますよ。」
掴んだ腕を振り払いながら答えた。
「本当か、本当に守は助かるのか。そうか…良かった。」
「すみません。それでは、俺が言うまで出てこないで隠れていて下さい。」
キャプテンが隠して先輩の方へ歩き出す。カチャカチャと歩くたび蒼黒い甲冑が音を立てる。キャプテンを蹴った広場まで戻ると、真っ赤なドレスを着た紅先輩が、炎の龍を2匹従えて待っていた。
「お前は、誰だ。静矢との戦いを邪魔しやがって、1対1の約束のはずだぞ。」
燃える様な赤い目をした先輩に無言で剣を向ける。
「手嶋 静矢は死んだ。次はあいつらだ。さっさと行くぞ。」と紅先輩に告げる。
「ふざけるな。静矢との1対1は了承済みのはずだ。」炎の龍の威圧感が増している。
「はぁ、時間をかけ過ぎ。さっさと行かないと、向こうで転がってるやつみたいにするぞ。」
先輩が炎龍を放ってきた。近付いてくる龍の熱い顎が迫って来る中、賭けに勝ったと確信し龍を切り伏せる。龍の向こうには涙を浮かべた先輩が立っていたからだ。
「戦いたかったんだろう。お前がそれを望んだんだ。これが結果、どこかで願っていたからこうなったんだ。」顔が蒼白になった先輩に語りかける。
「手に入らなければ無くしてしまえばいい、そう思ったんじゃないか。その炎で跡形もなく焼きつくしたいと。」違う違うと呻く先輩にさらに告げる。
「使えないやつだな。そうだ、あいつの最後の言葉を教えてやろう。確か、あいつだけは…だったな。時間が押してたんで、最後まで聞かなかったがな。助けて欲しいか許さないかは知らんがな」
「ちがう、こんなんじゃない。私はこんなこと願ってない。私は静矢に守って欲しかった。守り守られる関係になりたかった。私の願いはこんな願いじゃない。」先輩の姿がぶれる。
先輩の周りの炎が歪み人の形を作り先輩の方を向き話しかけた。
「何言ってるの。静矢は私の方が強いと思っていたから、このままじゃ守ってくれるはずはなかった。こうなったのは全てあいつのせい。だから、仇を討とう。ねぇ。」
先輩に纏わり着く炎に軽蔑くべながらキャプテンに合図する。
「キャプテン、今です。押しつぶしてください。」
光の壁が先輩と炎を隔て、炎を囲む。壁はじりじりと集まっていく。炎は壁に何度も体当たりしているが壁はただただ迫っていくばかりだ。
「謀ったな。お前ら…そうだ、私を消してこいつが無事だと思うのか。私はこいつの願いから生まれた。私が死ねば、こいつの、この願いも消えるんだぞ。静矢お前を好きだと言うこの感情も消えるんだぞ。それでもいいのか、静矢。」
炎が狭くなっていく空間で暴れまわる。
「こいつの記憶が、なくなった所を横から掻っ攫うつもりなんだ。静矢、待て、待つんだ。」
光の壁の進行スピードがほんのわずかだけれど落ちた。キャプテンが揺さぶられている。まずいと思って、キャプテンに話そうとすると、先輩がキャプテンの下へ走っていく。そのまま先輩がキャプテンに抱きついて、離れている俺に聞こえるくらい大きな声で叫んだ。
「私は…私は静矢が好きだ。ずっと前から好きだった。今、あいつと私は繋がってない。私だから分かるよ、静矢。私を信じて。」
壁の速度が勢いを増していく。もう30cm四方位しかない。だけど、後一押しが足りない。そこからは、大きくなったり小さくなったりを繰り返している。斬りに言った方が良いのか。キャプテン達の方を窺う。先輩がキャプテンを後ろから包み込むように手を重ねて、何かキャプテンに呟いたと思う。
「あぁぁぁぁぁぁ」
圧縮されていく四角の箱が消える時、敵の断末魔が鳴り響いた。
何故、こうなってしまったんだろう。
戦わせるつもりだったのに…次回はバトルになるはず。
後、この作品を呼んでくれている人ありがとうございます。
できれば、これからもよろしくお願いします。




