狂行凶行
4月19日 護送船内 ラウンジ(白い部屋)
部屋に戻ると、顔色・腕の傷ともに回復した蹴斗が立っていた。
「W級オープを単身撃破したのか。マヤ達の所では正規兵になるための最後の試験の相手だというのに。お前いったい何者なのだ。」
マヤが驚いているが正直あまりたいしたことなかったと思ったし、それより蹴斗に聞きたいことがあった。
「蹴斗復活したみたいで良かった。あとさ…弓道部の人に恨まれてたりしないかな。」
そんなに恨まれるようなやつじゃないと思うけれど、一応聞いてみる。
「完全復活だぜ。恨みか……一昨日の学食の最後のカレー食べて、的場が食べれなかったことか…分かんね。」
聞いて失敗したと思った。
「創志、なんでそんなこと訊くんだ。」
敵が弓を装備していたこと、最初から蹴斗に攻撃して自分が眼に入ってなかったことを告げた。
「今回の異界の核のヒントが得られたみたいだな。蹴斗よ、今後は周りをよく観察して注意するのだぞ。それより敵がこの段階でW級オープだとは…核はT級オープかW級ウイシュになりそうだぞ。」
確か、級の方がW・C・Tの順番で強くなって、名前はオープ・ウイシュ・デザイアの順に強くなったよな。シンクは確か別系統だったよな。どの位強いんだろ。
『顔が笑ってますよ。今の貴方ではW級オープまでなら、単身撃破できるでしょう。C級からはチームを組まないと逃走することになりますよ。』
「お前、キーに苦言を言われたようだな。何を言われたかは分からんが無茶はするなよ。今後の事だが、核の元を探しつつより強くならなければならんぞ。今のままではおそらく核には勝てん。」
マヤにもキーにも断言されてしまった。何故こう言い切れるのか疑問に思っていると蹴斗が質問した。
「なあ、マヤ。核を見つければどうすればいいんだ。見つけても戦うようなこと言ってるけど。」
そういえばそうだ。核の元となる人物を見つけても、異界の核はすでに出来ているから、気付かせると何か効果があるのかな。
「異界の核が成長し、ある段階に達すると、異界に元を連れてきて融合する。融合すると強くなるばかりでなく、元を乗っ取り現実で活動するようになるのだ。また核は元の願いや理想が歪んで成長するものだから、元の願いを否定されると若干弱くなるぞ。」
「マヤ、サンキュな。頑張って探すぜ。」
弓に関係して、蹴斗を攻撃したいか…歪んでるのも含めて考えるのか。難しそうだ。それにもっと強くならないといけない。
4月24日 竜門高校 2-B教室
連日の練習でマヤに核と戦えるレベルになったことを告げられた。連携技は使わず前衛・後衛に分かれて攻撃し続ける方法だったけど。蹴斗が敵の攻撃を背中で受けきる“ポストプレイ”を使えるようになったことが大きかった。戦闘の幅が広がって凄く楽しい。新しいスタイルも、もう少しで出現しそうだ。そうご機嫌な感じで教室に入ると、深波真が蹴斗と話していた。
「おい、シュウ。メグが最近遊んでくれないって嘆いてたよ。あたし達のメグを悲しませるなんていい度胸じゃないか。」したり顔で話しかけているのを見てなんかテンションが下がった。
「いや、これにはわけがあってだな、プレゼントを隠れて準備したり、サプライズパーティの準備をしたりだな…あっ、創志おはよう。という訳で黙っててくれると嬉しい。」助けてくれと顔に書いてあったが気付かない振りをして、挨拶を返し席に座った。
「やっぱりか、そんなことだろうと思ってたけど、何であたし達にも相談しなかったんだ。二人っきりで過ごしたかったのか。図星かよ。」
蹴斗が少し赤くなって頬をかいている。辺りを見回すと皆2人に注目していた。
「友達の誕生日をあたし達も祝いたいんだ。一緒に準備しないか。もちろん最後は2人っきりにしてやるから。」
「真、サンキュ。お願いするよ。」
「頼まれた。後、今日はメグと一緒に帰ってやれよな。最近物騒だし、何かしたかって不安がってたからな。メグは人気高いんだから、うかうかしてると取られっぞ。」
「大丈夫だ、取られたりしない。」
蹴斗はドヤ顔を決めたのが見えると、隣の三田がリア充爆発とか言っていた。
物騒か…確かに異界に連れ込まれる人が増えてる。雑魚敵が活発になっていることもあるし、核もいつ動き出してもおかしくないらしいから急がないといけないが、核の元がまだ分からない。考え事をしていると担任の東野先生が来て朝のHRが始まった。
「皆さん、最近行方不明になる人が増えてきています。気をつけてください。後、2限目と4限目が入れ替わるので注意してください。最後に美化委員と園芸部と生徒会の人は放課後美化活動があります。放課後、花壇前に集合してくださいとのことです。」
特に関係ありそうなことはないな。学校終わり次第異界に行くか。
同日 放課後 異界第2層
放課後は独りで雑魚狩りに来ていた。蹴斗は部活が終わり次第メグと一緒に帰ってから来るらしい。新しいスタイルを身につけるために何対もの天使を蜂の巣にしている。ちなみに名前は、ASと決まったようだ。罰当たりなことをしている感が否めないが、キリスト教徒でもないしいいだろう。本物じゃないし。
『3層への入り口を感知しました。核の覚醒が近付いているようです。んっ、マヤからの通信を確認、通話モードに切り替えます。』
「創志か、俺だ。蹴斗だ。紅先輩達がさらわれた。今からマヤとそっちに行く。ちょっ、キャプテン駄」
「創志、俺が行くまで守を頼む。蹴斗、連れてってくれ。」
………何が起こってるんだ。蹴斗は紅先輩“達”がさらわれたって言ってたよな。
『3層に人の反応が2つ検出、なっ…T…級オープの反応も出ました。』
「キャプテンには悪いけど、蹴斗と1層を散策しててもらおう。時間もないし、助けるだけならなんとかできるだろ。キー、ナビ頼むよ。」
T級か救出後に蹴斗と合流して戦えば、倒せるはず。まずは、紅先輩を助けないとな。
『了解しました。ただ3層は完全に敵のテリトリーのようです。ジャミングが凄いです。』
「急ごうか。」身震いしながら答えた。
同日 異界第3層
1層は不気味な夕焼けの街、2層は赤黒く不気味な街で、3層は電気もなく月明かりを頼りにしないといけないくらいの夜の街だった。大きく赤い月が唯一の光源だ。
「キー、2人の位置をマップに表示してくれ。…ノイズが走ってる。ジャミングの効果か。」
『は…い、ジャ…グ解・・・まで…・・有…囲は…2kmで…』
今までこんなことはなかったから、敵が強いんだろう。速く先輩達の所に行かないとまずいか。マップを確認すると自分と逆方向に走ってる。ふと視線を感じて後ろを振り向いたがなにもいなかった。
「気のせいか、キー行くよ。」
マップを頼りに先輩達のもとへ向かう。先輩達の周りにASやRシンクの反応が集まってる。先輩達のスピードが落ちてる急がないとまずい。うわっ、二手に分かれた。片方は家の中か、敵は動いてる方を追っているな。まずは、追われてる方から助けるか。
T級も近付いてきてる。ギリギリ接敵するか、ちっ、マップがノイズだけになりやがった、くそっ。次の角抜ければ会えるか。とりあえず消えたマーカーが走っていた方向に走っていく。足音が聴こえてきた。銃を装備して角を曲がる。あれは確か早乙女さんか、まず1人目。後ろから追ってきているAS達に正確に発砲する。着弾した所から凍って、羽根を動かせなくなり落下していく。
「神郷君、助けて。先輩が怪我して…」
冷凍弾を撃ち切ると手を取って走り出し叫ぶ。
「キー1人確保だ。戻してくれ。」
「先輩がまだ居るの。先輩も助けて。お願い。」
腕を逆方向に引っ張られる。彼女も助けに向かおうと必死なんだろうが邪魔だ。
「同時には無理だ。お前を連れて先輩のところまでは戻れないんだよ。まず、お前。そして、先輩だ。」
「でも…でも、先輩怪我してるし…」
話が通じないな。
「いいから、黙ってろ。先輩を助けたいのは俺も同じだ。絶対助けるから。今は黙ってついて来い。」
『ノイズが晴れていますね。転送システム発動。それより、余裕がなくても女性に怒鳴ってはいけませんよ。』
舌打ちして、早乙女を見ると怯えていた。
「ごめん。余裕が無くて。とりあえず、まずは君をにがしてから先輩の所に行くよ。」
キーのお陰で少し頭が冷えて、さとすように伝えることが出来た。早乙女さんも少し落ち着けたようだ。転送が始まる。敵に睨みを利かせているうちにラウンジに戻ってきていた。
早乙女さんを座らせると同時にワープ扉に向かう。
「キー、先輩が隠れてる家の前に頼む。早乙女さんはここで待ってて。先輩連れてすぐ戻ってくるから。」
言い終わるとワープが始まる。敵は逆側に集まってるし楽に戻ってこれるはずだ。戻ったらキャプテンには2人と一緒に居てもらって、蹴斗と倒せばいい。よしそれでいこう。
家の前に到着する。影の形がおかしい。何か後ろに…まずい。後ろから突き飛ばされた勢いで、玄関のドアに激突する。痛みを堪えて、立ち上がりながら後ろを向くと3m程の阿修羅の様な物が居た。腕は長さがバラバラで9本か。体の左右に弓を構え、正面に弓を寝せて撃てるようにしている。先輩がどこに隠れているのか分からないから下手に避けれない。矢は正面にしかセットされていないが、3本ともうとうとしている。正面の矢に集中する。
矢に触れている指が離れるのを感じ、体を右に捻りつつ左手で射線上の矢を押し出すように摑む。そのまま捻りながら右手に握っている銃を敵に向けた。
「がっ…息が…」
何だ、鳩尾に何か当った。足がすぐ近くにある。
頭に何か落とされたか。地面にぶつかる。顔を起こして阿修羅を見ると動いてなかった。見えない矢でも飛ばしてるのか。
3本の弓が固定され腕が引かれる。
頭がガンガン響くのを我慢して立ち上がり、銃を撃つ。ただ敵に向かって引き金を引く。敵の足元に弾が増えていくだけで、効いていない。冷凍も炸裂も発動しない。背中の冷や汗が止まらない。
敵の手が開く
引き金を引く速度を上げる。弾幕を張っておけば…体が…浮いた。それからすぐ痛みがやって来た。胸が突き上げられたように痛い。咳き込みながら転げまわる。
「がはっ…はっ…はっ…うっ…」
玄関を突き破って、突き当りの部屋まで吹っ飛ばされていた。敵はゆっくり近付いてきている。勝つのは難しいな。速く先輩を見つけないと、そばにあったソファアに手を着き立ち上がり、壁に寄りかかり先輩を探す。敵はでかい図体が邪魔してうまく入って来れないようだ。
「先輩…どこですか。紅先輩。」
二階から物音がした。
「早乙女なの…大丈夫なの。」
声が…聞こえた。うまく動かない体に焦りを覚えつつ2階へ向かう。
「キー、転送の準備を頼む。」
『・・・・・・・・・・・・』
応答が無い。
階段を登って最初の部屋に先輩が居た。
「誰なの…」先輩は怯えていた。
「俺です。神郷です。先輩、怖かったんですか。涙の後がついてますよ。はは、意外と怖がりなんだ。」意外な一面を見てしまった。
「今のが神郷の素か。要らんところを見られたな。静矢には言うなよ。」
震えているけど、少しは安心したみたいだ。左手を先輩へ伸ばす。
「手嶋キャプテンも探してますよ。そりゃ、必死で。それより、逃げますよ。立てますか。」
「少しは走れる。肩を掠っただけだからな。神郷はどうなんだ。わき腹押さえてるが。」
「先輩よりは動けますよ。気付かれるとは思ってませんでしたけど。」
向こうからは顔を見れないのに、ばれるとは本当に思ってなかった。正直早く転送させて欲しい。先輩の手を引っ張って起こす。
部屋を出ようとすると足を摑まれた。床から手が生えていた。摑まれてない方の踵を指先に落としていると、床が揺れた。一瞬浮遊感を感じた後床が迫ってきた。頭を守りつつ先輩のクッションとなるべく抱き寄せる。床が折れた所から阿修羅の顔が覗いていた。
「先輩、裏口から逃げるぞ。」
2階の床が頭に直撃した時だろうか、足は解放されている。
手を引いて裏口から出る時にスタングレネードを放り込み扉を閉める。
「もう少し頑張ってくださいね。辛かったら運んであげてもいい。」
「口調が安定してないぞ。余裕がなければ素のままでいい。」
「助かる。」
裏門から出て路地に入る。まだ雑魚は来ていない、逃げ切れるか。角を曲がろうとすると撥ねられた。いや縫い付けられた。左肩が焼けるように痛い。矢が肩を貫通して塀に突き刺さっている。
「神郷、今抜いてやる。」
先輩が抜こうと手を矢にかけると同時に押し飛ばす。
「何す…」 バシュ
2本目が突き刺さる。
「ぐっ、先輩。ここからまっすぐ行って突き当たりを、右に曲がると変な扉があります。そこに入れば大丈夫です。先に行ってください。」
キーの反応もないし、転送は間に合わない。扉の方がましかな。
「置いて行けるわけ無いだろう。今抜いてやるからじっとしてろ。」
やっぱり良い人だな、先輩は。阿修羅が走ってきてる。もう一度先輩を突き飛ばす。
「ごふぉ…」
蹴られて後ろの民家に突っ込んだ。
「神郷を…よくも」
先輩…無駄だよ。あんたじゃ…勝てない。俺じゃないと無理…意識が…
「があっ」
落ちかけた意識が痛みで覚める。射抜かれた。顔をあげ阿修羅を睨みつける。阿修羅は邪魔と言わんばかりに先輩を払いのけ、こっちを向いて哂った。
嫌な予感がする。何をする気だ。頭の中で警鐘が鳴り響く。何だアレは、阿修羅の後ろに何かいないか。あのゆっくり近付いてきているのは、何だ。あの白いやつは…核か。それなら先輩が核の元…まずい。
「うあああぁ」
叫んで気合を入れて立つ。
「邪魔だ。どけぇ。」
阿修羅に突貫する。矢をかわす。1つ目、2つ目、ラスト。股下を潜り抜ける。
「先ぱ・ぐえっ」
頬に裏拳が決まる。首が…そのまま壁に弾き飛ばされる。再度矢で縫い付けられる。
白いドレスを纏う何かが眼前を通り過ぎる。ギリギリ動く左手で狙いをつけようと持ち上げようとした。肩を上げれずもたついていると、矢が銃を弾き飛ばした。
「キー…まだか…この距離なら……先輩も…速く…頼む」
白いドレスの何かが先輩の前に立っている。後ろ姿しか見えないが、開いたっ。前の部分が分かれたのか。まさか…やめろ、やめろ、やめろ。
「・・・ゃ…やめろ。やめろおおお。」
痛みを忘れてもがく。右手を止めていた矢を力任せに抜く。そのまま右手で右肩に刺さっている矢を掴み力をいれる。白いやつはまだ大きくなっている。右肩の矢を抜く次は左肩だ。
白ドレスが先輩の腕を掴んで無理矢理立たせてこちらに向けてきた。白ドレスが溶けて先輩に纏わり着き始める。左肩の矢を抜き立ち上がる。
2,3歩歩くと無様に倒れた。
「動けない・・先輩…」先輩が白いドロドロに包まれて見えなくなった。
白が変質を始める。自分の周りが淡く光る。
「遅…い…いまさら…転送して」
ごめん…約束…守れなかった。
手も足も出ずにぼろ負けするのを書くのが楽しくなってきた。




