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【完結】婚約破棄ですか? どうぞご勝手に  作者: 逆立ちハムスター


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3/7

冷えた牢獄

深く、泥のような眠りから引きずり起こされたのは、鼓膜を破らんばかりの凄まじい破壊音によってだった。


「エリシュカ! 貴様、いつまで寝ているつもりだ! 罪人の分際で!」


私室である公爵邸の寝室。その重厚なマホガニーの扉が、蹴り破られるようにして開け放たれていた。

夜明け前の薄暗い部屋に、松明の赤黒い炎が暴力的に入り込んでくる。乱暴な足音と共に踏み込んできたのは、昨日の昼下がりに私に婚約破棄を突きつけた第一王子、ヴァーツラフだった。


「……殿下? 一体、何の真似でしょうか。夜明け前とはいえ、未婚の女性の寝室に無断で踏み込むなど……」


私は寝台の上で身体を起こし、薄いナイトガウンの胸元をかき合わせながら、極めて冷静に問いかけた。

だが、ヴァーツラフ王子の背後を見て、私は微かに眉をひそめた。彼に従っているのは、見慣れた王城の近衛兵や、公爵家の衛兵たちではない。

揃いの制服もなく、錆びついた鎖帷子や汚れた革鎧を無造作に身につけた、体格の荒々しい男たちだった。むせ返るような安酒と汗、そして血の匂いが漂ってくる。彼らの目には王室への忠誠など欠片もなく、ただ下卑た欲望と暴力の気配だけが宿っていた。恐らく、街の裏通りで金で雇われた傭兵か、ごろつきの類だろう。


「黙れ! 貴様は王家に対する重大な反逆を企てた! 直ちに城の地下牢へ連行する!」

「反逆、ですか。私がオルトロスを処分した件につきましては、昨日申し上げた通り、正式な法廷で――」

「言い訳など聞かん! おい、この女を引きずり出せ!」


王子の命令に、傭兵たちがニヤニヤと笑いながら近づいてくる。

だが、彼らが私の身体に触れるより早く、ヴァーツラフ王子自身がずかずかと寝台に歩み寄り、私の右腕を力任せに掴んで引きずり下ろした。


「痛っ……!」


思わず短い悲鳴が漏れた。彼が掴んだのは、先日オルトロスに噛み砕かれたばかりの、縫合を終えた右腕だったからだ。包帯越しに鋭い激痛が走り、傷口から熱い血が滲み出すのがわかった。


「殿下、おやめください! 傷が開きます!」

「知ったことか! 貴様が私の『子供たち』を売り払った痛みに比べれば、これしきの痛みなど何でもないわ!」


王子は狂気を孕んだ目で私を睨みつけ、そのまま私の腕を強く引っ張って部屋から引きずり出した。

公爵邸の廊下には、気絶させられた我が家の使用人たちが何人も倒れていた。どうやら、この粗野な傭兵たちを使って、強引に屋敷を制圧したらしい。

私は痛みに顔を歪めながらも、必死に足を踏み出し、彼に引きずられるまま夜の冷気に満ちた王都の石畳へと連れ出された。


---


王城の地下深く。

そこは、太陽の光が一切届かず、年中冷たい地下水が壁を伝う、湿っぽく陰惨な空間だった。かつて重罪人を幽閉するために作られたその場所に、私はナイトガウンの上に薄いショールを羽織っただけの姿で連行されていた。


鉄格子の並ぶ最奥の区画へたどり着くと、そこには長年この地下牢を管理している白髪交じりの老看守が、ランタンを手にして立っていた。突然の王子の来訪と、見知らぬ傭兵たちの集団、そして引きずられてきた私を見て、看守は驚愕に目を丸くした。


「おい、そこの爺! さっさとこの檻を開けろ! この大罪人をぶち込んでやる!」


ヴァーツラフ王子が、私の腕を放して看守に怒鳴りつけた。

しかし、老看守は震えながらも、毅然とした態度でその場から動かなかった。


「……お、恐れながら、ヴァーツラフ殿下。ここは国王陛下に直接逆らった大逆罪人や、極悪非道な重犯罪者のみを収容する特別監房でございます。高貴な公爵令嬢であらせられるエリシュカ様を、しかも正式な手続きや国王陛下の許可状なしに投獄するなど……そのような命令には、たとえ殿下のご命令であっても従うことはできません」


昨日、近衛兵の隊長カレルが言ったのと同じ言葉だった。

王の定めた法に従う者にとって、王子の個人的な感情による処罰は無効なのだ。


「貴様も私に逆らうというのか! ええい、忌々しい! 使えない老いぼれめ!」


ヴァーツラフ王子は苛立ちの絶頂に達したのか、看守の胸ぐらを掴んで突き飛ばした。床に倒れ込んだ看守の腰から、ジャラジャラと音を立てて重たい鍵束を奪い取る。


「どいつもこいつも、国王の許可、許可と……! いいか、今この瞬間から、この国の全てを決めるのは私だ! 私が法だ!」


王子は手当たり次第に鍵を鍵穴に突っ込み、やがてガチャリと重い音を立てて分厚い鉄格子が開いた。

次の瞬間、私の背中に強い衝撃が走った。王子が私の背中を思い切り蹴り飛ばしたのだ。


「きゃっ……!」


私は冷たい石の床に無防備に投げ出され、肘と膝を強く打ち付けた。右腕の傷口から流れた血が、白いナイトガウンを赤く染めている。


「貴様は首を洗って、そこで自分が犯した罪の重さに震えているがいい! おい、そこの爺、貴様はクビだ! 二度とこの城に顔を見せるな!」


王子は倒れた看守にそう吐き捨てると、背後に控えていた傭兵たちに向き直った。


「お前たち、この女を絶対に見張っておけ! もし逃がしたり、誰かを近づけたりしたら、首を刎ねるぞ!」

「へへっ、承知しましたぜ、殿下。まあ、こんな小鳥ちゃんがこの鉄格子を破れるわけもありませんがね」


下品な笑い声を残し、ヴァーツラフ王子は再びドカドカと乱暴な足音を立てて地下牢から去っていった。

鉄格子が乱暴に閉められ、外から鍵がかけられる。暗い牢屋の中に取り残された私は、痛む身体をゆっくりと起こし、冷たい壁に背を預けた。


(……一体、何が起きているの?)


いくらヴァーツラフ王子が愚かで短気だとはいえ、一国の公爵令嬢の屋敷に私兵を差し向け、国王の定めた法を完全に無視してまで私を地下牢にぶち込むなど、明らかに度を越している。昨日までの彼であれば、怒り狂っても近衛兵に八つ当たりをする程度だったはずだ。

それに、あの正体不明の傭兵たち。公爵邸を制圧し、私を連行するほどの数を、たった一晩でどうやって城内に引き入れたというのか。


鉄格子の向こうでは、監視を任された傭兵たちが早くも床に座り込み、隠し持っていた酒瓶を回し飲みしながら下品な賭け事を始めていた。彼らから王家への畏敬の念は一切感じられない。ただ、「金払いのいい雇い主」の命令に従っているだけだ。


冷たい床から伝わる冷気が、容赦なく体温を奪っていく。

私は膝を抱え、震えを抑えながら、この異常事態の裏にある真実を必死に思考し続けた。


それから、どのくらいの時間が経っただろうか。

鉄窓から差し込むかすかな光の具合からして、おそらく朝の八時を回った頃。地下牢の静寂を破り、規則正しい、重厚な金属の足音が階段を降りてくるのが聞こえた。

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